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<聴事(チチグトゥ)を求めて 組踊初演300年>114 組踊における話芸(4) 所作と合わせ笑い得る


<聴事(チチグトゥ)を求めて 組踊初演300年>114 組踊における話芸(4) 所作と合わせ笑い得る 田里朝直作「大城崩」の一場面=2023年、浦添市の国立劇場おきなわ
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 「マルムン」の話芸の嚆矢(こうし)は田里朝直の作品、「義臣物語」に登場する「夜廻り」であることを前回示した。この「夜廻り」が嚆矢であることについて最初に指摘したのは研究史上、矢野輝雄である。しかしながら矢野は「夜廻り」が嚆矢であることを説明していない。なぜ「夜廻り」が嚆矢であるのかについては、筆者には明確な理由がある。矢野と同じであるかはわからないが以下、説明してみたい。

 田里の作品である「大城崩」には「マルムン」に相当する「草切」役がいる。この「草切」役は「夜廻り」とは異なる表現の「マルムン」である。以下、『校註 琉球戯曲集』から詞章をみてみよう。

 供詞
 やあ、草切よ、あの宿の
 主やいきやしちやる人が。

 草切詞
 この村の頭取泊のひや
 宿だやべる。

 供詞
 又頃日、首里方の人の宿借やり居んで云ふすが、聞きぼしやよあもの、語てくれよ。

 草切詞
 宿人や女わらべ三四人だやべる。

 供詞
 よかツ人か百姓か。

 草切詞
 北表の幕に入る
 百姓やあやべらぬ、よかツ人のごとどあやべいる。まづ、通やべら。

 この場面は、大城若按司の臣下である外間の子とその供が、敵の子である大里若按司らの潜伏先で、付近の百姓から大里若按司らの情報を伺っている場面である。供の詞章は組踊の定型である韻文・琉歌調であるが、それに対して答える草切は、散文体の詞章になっている。

 そして、同じ田里の創作である「北山崩(本部大主)」にも「マルムン」の「加那筑」が登場する。以下、詞章を見てみよう。

 こわい 〳〵〳〵。わぬや大宜味加那筑とやゆる。
 わか犬や国頭九ヶに一番犬たやへる。
 しゝ とゆる場にいれは。しゝのをつてかち
 くれは。とんのひやかて。
 あらかちくうてあん
 ふいかんふい終にのはきらしやへん。
 はうれ〳〵大笑
 かいれ〳〵
 たて〳〵
 あやすれ〳〵大笑
 はい物わすしち此山に我かはらうしのいまいすか。
 物告さねはしらぬ

 この「加那筑」は犬を引き連れて登場する。犬は人が入っていたと考えられる(当時の配役などが存在しないのでここは臆測である、しかしこの様な演出は「花売の縁」の猿役にも見られる)。傍線部は犬を調教している様子で、この詞章に合わせて、犬が所作をしていると考えられる。「加那筑」の詞章は散文体であり、この詞章に合わせて犬が芸をする。このことからも話芸と所作が相まって客席から「笑い」を得るのである。「義臣物語」ではただの話芸だったが、ここでは所作を含め、万才のようになっているのである。

(鈴木耕太、県立芸大芸術文化研究所准教授)