ロックな生き方にとことん寄り添った一冊
1970年代から、沖縄のロックシーンで活躍した“ひげのかっちゃん”こと川満勝弘さん。昨年4月20日に亡くなった後も、その歌声と数々の逸話が語り継がれている。2006年から亡くなるまで、彼の最後の17年間を共に過ごしたのは、パートナーであり写真家のnoricoさんだ。2人の歩みの記録は、写真集『Condition Rainbow』に収められ、今月発売される。かっちゃんが最後の時間を過ごした部屋で、写真集のサンプルをめくりながら話を聞いた。
生きたヘビをステージに持ち込む、靴でビールを飲むなど、強烈なパフォーマンスでその名をとどろかせたひげのかっちゃん。『Condition Rainbow』にも、ステージでの勇姿が紹介されている。その一方で、日常を切り取ったカットも見逃せない。
「かっちゃんはひげをとかすのがクセでした。100均の柔らかい櫛(くし)を愛用していたんだけど、出かけた時に忘れると取りに帰ったり、『100均寄って買わなくちゃ』となる」
「(昔やっていた)お店のステージ脇にはアダンの枝葉を飾っていました。お花をいけているつもりなのか、『そろそろ枯れてきたから、海に行ってアダンを取ろうね』。『みんなに刺さると危ないからチクチクは切ってね』と(笑)」
noricoさんが伝えるかっちゃんはチャーミングだ。物持ちが良く、字がきれい、そんな一面もあったという。
遊び心も風景も
写真集の制作資金は、今年3~4月に行ったクラウドファンディングで調達。全国のファンや関係者から支援が寄せられた。目標金額を達成できたことで、noricoさんの写真を中心に、数々のエピソードを紹介する文章、若い頃のかっちゃんを紹介する資料(本人の昔のアルバムから)も加え、見応えのある作品に仕上がっている。ライブDVDのポスター、CM出演した製品のチラシ、歌詞ノートなどを付録として挟み込み、遊び心も欠かさない。
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コザの街並み、ドライブで出かけた海岸など、風景写真を使うことにもこだわった。変わりゆく風景の記録としても楽しんでほしいそうだ。
らしさ最後まで
写真集の後半は介護の日々、看取り、葬儀の記録だ。しかし明るい雰囲気は一貫して保たれている。
「かっちゃんは、金太郎あめみたいにかっちゃんらしさを保ったまま、人生を謳歌したってことを、そのまま伝えています。介護をしている方、年を重ねた方、病気の方が見た時に『まあそうだよね』とリラックスしてほしくて」
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亡くなる2年半前、車椅子生活になったかっちゃんと海へ行ったことも教えてくれた。なんとかっちゃんを抱えて泳いだという。浜に上がった後、へとへとのnoricoさんにかっちゃんは「明日も来よう!」と誘ったそうだ。
「かっちゃんに出会って、撮ろうと思った時には、絶対本にしようと決めていました。本当は生きてる間に出したかったんですが、今になってまとめられたというのは、そういう巡り合わせだったのかな、って気がしています」
noricoさんはロックな暮らしと写真集制作を振り返ってほほ笑んだ。生きることのおもしろさが詰まった一冊。ぜひ手に取ってみてほしい。
(津波典泰)
ひげのかっちゃん写真集『Condition Rainbow』
写真・テキスト:norico
デザイン:末吉努
編集・構成:川口美保(CONTE MAGAZINE)
価格:9900円(税込)
13日(土)から始まる『ピースフルラブ・ロックフェスティバル2024』の会場(ミュージックタウン音市場)で先行発売。15日(月)以降、ジュンク堂那覇店の他、県内の書店や専用販売サイトでも購入可能となる
【出版記念トークショー】
日時:8月17日(土) 15時~
場所:ジュンク堂書店 那覇店
専用販売サイト https://norico.base.ec/
ひげのかっちゃん/川満勝弘(かわみつ・かつひろ) 1944年宮古島生まれ。10歳でコザに移住。64年、バンド「Whispers」にドラマーとして在籍。71年、バンド「Condition Green」結成、ボーカル/リーダーとして活躍。88年の解散後は音楽活動の他、映画、CMなどに出演。平成26年度沖縄県文化功労者。ラストステージは、2022年7月の「ピースフルラブ・ロックフェスティバル」。2023年4月20日他界
norico/吉岡紀子(よしおか・のりこ) 1976年神奈川県横浜市生まれ。写真家・福岡耕造さんに師事。フォトグラファーとして雑誌・カタログ・広告などで活動。06年7月2日の早朝、かっちゃんの経営していた店「ジャックナスティー」で、半裸で寝ていたかっちゃんと出会う。以後東京と沖縄を行き来する生活に。2022年、コロナ禍の中、入退院を繰り返していたかっちゃんと少しでも長く過ごすために沖縄移住
(2024年7月11日付 週刊レキオ掲載)
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