prime

【寄稿】作者は沖縄の「チムグクル」そのもの 平和への願い漫画に込め<4コマに描く沖縄・がじゅまるファミリー連載20年>


【寄稿】作者は沖縄の「チムグクル」そのもの 平和への願い漫画に込め<4コマに描く沖縄・がじゅまるファミリー連載20年>  ももココロさん
この記事を書いた人 Avatar photo 外部執筆者

 琉球新報の社会面で連載中の4コマ漫画「がじゅまるファミリー」(ウチナー漫画家・ももココロさん作)が、2004年1月の連載開始から今年で20年の節目を迎えた。今年5月28日付の紙面では掲載6477回を迎え、ももさんが目標としてきた朝日新聞掲載のサザエさん(6477回)に並んだ。個性豊かな登場人物と共に沖縄の日常が描かれる4コマ漫画の魅力について、県内の出版事情に詳しい編集者の宮城一春さんに寄稿してもらった。

 琉球新報の社会面で連載している4コマ漫画「がじゅまるファミリー」の登場人物たちは、どこまでも優しく笑顔が絶えない。そして「がじゅまるファミリー」のどこにも悪人は登場しない。また「がじゅまるファミリー」からは、現在の沖縄が見えてくるといってもいいだろう。それは、市井の人々の姿を真摯(しんし)かつユーモアや悲しみを交えて描く作者・ももココロさん(以下、作者)の力量によるところが大きい。よって作者は“沖縄のチムグクルそのもの”であると、私は断言したい。

 今回、本稿を書くに当たって全ての作品を読むことは難しかったので、2008年から24年までに琉球新報社から刊行された『がじゅまるファミリー』の第1~9巻を読むことから始めた。

平穏な日常描く

 新聞連載の4コマ漫画ということもあって、時事ネタがほどよく描かれているが、どんなにヤマトや沖縄を騒がす事件・事故が起きても、作者は一家の平穏な日々を淡々とユーモアを交えながら描いていく。そこには、作者なりの社会に対する思いが込められているように思えてならない。平穏な日常を描くことこそが、平和への最大の願いなのだと。

 さらに、まなざしの優しさにも気付く。マイナス面をプラスに転じる頭脳構造が、元から作者に備わっているのだろう。それらを含めて作者がどのように社会的事象を捉えているかが分かる。

 例を挙げると、2005年1月10日は「成人の日」。泡盛が「荒れる成人式にならなければいいけどなぁ」と言うと、てぃだ子が「大丈夫よ、それより」と指を差した先には、「はたちの献血キャンペーン」に並ぶ新成人たちの姿が描かれている。作者が言うところの、思わず笑ってしまう4コマ目。心がほっこりする漫画を描いていきたいという精神が、作品に現れていると言っていいだろう。

豊富な沖縄ネタ

 「がじゅまるファミリー」の特長といえば、沖縄ネタ(特に年中行事)やウチナーグチを多く取り上げていること。ムーチーに始まって浜下り、シーミー、ユッカヌヒー、旧盆、はたまたムーチービーサやしまくとぅばの日にちなんだ言葉の数々。さらに作者らしいというか、沖縄の新聞らしいのは、毎年必ず甲子園ネタが入ってくること。いかに甲子園を楽しみにしている県民が多いかも知ることができる。

 特筆すべきは「慰霊の日」関連の掲載。まさしく沖縄の新聞だからこその題材であろう。沖縄だけでなく世界、人々の平和を希求する作者の真骨頂といってもいい。連載が始まった頃だが、心にぐっと迫ってきた作品がある。04年6月13日の「ウチナーグチ勝負(スーブ)」と題した作品である。

 チルーおばぁが「たくさん言えたらお菓子あげるよー」。対してマンタ「ポーポーでしょ。はちゃぐみ、ヒラヤーチー」など沖縄のお菓子の名前をあげていく。それを見ていたサンゴ(余談だが、このときのサンゴは髪が長いのだ)は「…サンゴまだ…ひとつしかわからんのに…」と泣いている。チルーおばぁが「いいよぉ。ひとつでも言ってごらん」と言うと「命どぅ宝」。マンタが「まいった…」と言い、チルーおばぁは「サンゴ、あんたの勝ち」と感服する。

 同じく04年6月24日の「平和の五十音表」。「よしっ、できた!」とサンゴ。てぃだ子が「まだ書いてないところがあるよ」と返すが、サンゴは「これでいいの。これはネ『せ』『ん』『そ』『う』のない、平和の五十音だから」。

 連載開始の年から「慰霊の日」を描き続けてきた作者だが、初年度に描かれたこのような作品は、今でも「がじゅまるファミリー」の中に息づいている。戦争の悲惨さを直接描くのではなく、サンゴや沈黙を守る亀吉おじぃ、その代弁者であるチルーおばぁの姿を見るだけで、平和への希求を心から願っている、作者の創作に対する心を具象化しているのである。

メッセージ

 また特筆すべきは、東日本大震災。8日間にわたって支援活動を描いている。沖縄戦は過去のものではなく、現在にもつながっていると主張している作者だが、現実の震災に関しては、離れていても、どのようなことができるのかを4コマ漫画の中で表現している。

 しかし、米軍被害に対する作品は厳しい筆致で描かれる。象徴的なのが、空を自由に飛び回る米軍機を描いた作品群である。これらは通常の事件・事故とは異なり、作者の怒りや悲しみが直接伝わってくる内容だ。最新刊9巻「平和の音」に顕著である。前後編の2本立てで、前編が沖縄戦で亡くなった方々を慰めるために「屋嘉節」を稽古するマンタたち。後編ではそれを披露するが、米軍機の爆音に邪魔されてしまう。しかも後編には一切セリフがなく、4コマ目の米軍機の「ゴーゴー」という音が強調されている。それが現実の沖縄であり、私たちに問われているのは、子どもたちの将来もこのままでいいのかという作者ならではのメッセージが込められている。さらに作者の手にかかると、ウチナーグチの素晴らしさや、先人たちの言葉に込めた思いが伝わってくる。

 20年といわず、30年でも40年でも「がじゅまるファミリー」を私たち読者に届けてほしいと思わずにはいられない。これからも作者しか描けない「がじゅまるファミリー」を私たち読者に届けてほしい。

 作者・ももココロさんに敬意を表したい。


がじゅまるファミリー

 がちまやー(食いしん坊)のマンタ、家族思いの妹・サンゴ、少しドジだが愛情豊かなマンタの母・てぃだ子など、個性豊かな登場人物と共に沖縄の日常を描いた琉球新報連載の4コマ漫画。琉球新報社から、連載のえり抜き集としてこれまで9冊刊行されている。


 宮城 一春(みやぎ・かずはる) 1961年那覇市生まれ。編集者、沖縄本書評家。複数の県内出版社、印刷会社出版部勤務を経て現在に至る。沖縄関連のコラム・書評・論説などを新聞、書籍で発表。