沖縄県出身で、台湾を拠点に活動する美術家・胡宮(こみや)ゆきなさんによる個展「Re―heat and Reborn 風連(かじち)りてぃ巡(みぐ)る」が29日まで、那覇文化芸術劇場なはーと共用ロビーなどで開かれている。亡くなった祖母のために昨年行った「カジマヤープロジェクト」の記録を再構築したインスタレーションを展示している。
2021年に最愛の祖母(享年93)を亡くした胡宮さん。当時はコロナ禍で渡航制限があったため帰省できず、祖母の死の感触に触れることができなかった。「祖母が楽しみにしていたカジマヤーを祝ってあげたい」との思いから、23年10月の祖母のカジマヤーの日に親族一堂が祖母の出身地である読谷村に集まり、パレードを実施。その後、祖母が好きだった大正琴や食べ物などを模した「紙紮(しさつ)」(中華圏の葬儀文化に欠かせない紙細工)をたき上げることでカジマヤーを“転送する”という「カジマヤープロジェクト」を行った。
本展ではまず、ロビーにつるされた提灯(ちょうちん)に目を奪われる。祖母の絵などが描かれた提灯には、祖母の好物や、満1歳の誕生日を祝う「タンカーユーエー」でおなじみのそろばんや白米などを模したクッションがつるされている。胡宮さんは「高齢者は童心に返るとされているため、タンカーユーエーのグッズを取り入れた。大人になったら何を選ぶのか、想像するのも楽しい」と語る。
小スタジオには祖母の生まれ年である兎(うさぎ)と、今年の干支(えと)である龍を掛け合わせた巨大なインフレータブル作品「兎龍」が、展示室壁には紙で作った花やチョウなどで埋め尽くされたアートパネルが設置されている。胡宮さんのプロジェクトに賛同した台湾を拠点とする4人組映像作家集団「2ENTER(ツーエンター)」による映像上映のほか、一連のプロジェクトのドキュメントを撮影した伊波リンダさんの写真も展示されている。
本展は胡宮さん自身の中にある沖縄の文化、中華圏の文化、そして沖縄の中のアメリカ文化が重なり合う“物語”であり、また現代社会における人々に対する死生観への問いにも映る。
「『死者へのカジマヤー』をイメージしたこのプロジェクトは祖母の死を受け入れるためのものではなく、延命を試みている。祖母と共に生き続ける決意を表現したんです」。胡宮さんは沖縄と台湾が融合し、新たな風習が生まれる可能性に期待をにじませた。
16日と20日には大スタジオでインフレータブル作品「オキナワ10XL」の展示もある。
(当銘千絵)