若い頃は文学は遠い世界だった。文書を書くことはおろか読書も好きではなった。思い当たるのは亡母だ。母・伊禮和子さんは1996年に第20回琉球新報短編小説賞を受賞するほどの物書きだった。
「母は手書きだったので、私が習いたてのワープロで清書していた」。何度も清書しているうちに文章にはリズムがあることが分かってきた。リズムが悪いところは、ワープロを打つ手がひっかかるようになった。母に勧められて琉球新報児童文学賞の創作むかし話部門に応募したら、いきなり佳作に選ばれびっくりした。2007年には正賞を受賞した。
太極拳を20年、中国武術は19年続けている。武術は、日々、技術を磨かないと落ちていくばかりで維持できない。「練習は一生」と先生に言われている。武術も体の弱い私を心配した母が勧めてくれた。
今では武術と書くことは車の両輪だ。共通点がある。「武術は相手の動きを見極めるために一生懸命見る。隙を探すために違った角度からも見る」。視野を広げることは物を書くときも同じで、人と話していても「なぜこの言い回しをするのか。何かほかに言いたいことがあるのか」など想像するようになった。
「今ではライフワークとなっている物書きと武術、すべて母が導いてくれた。感謝している。やめたらあの世で母に怒られる。ずっと続けていく」と笑った。本名は比嘉享子。沖縄市出身の63歳。