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<書評>『首里城と沖縄神社 資料に見る近代の変遷』 豊富な写真や図版、保存版に


<書評>『首里城と沖縄神社 資料に見る近代の変遷』 豊富な写真や図版、保存版に 『首里城と沖縄神社 資料に見る近代の変遷』加藤里織・後田多敦・前田孝和編著 近現代資料刊行会・7700円
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 本書は、神奈川大の後田多敦教授が「はじめに」で「首里城正殿と沖縄神社拝殿に関する写真や図版を中心としながらも基本的な文字資料も収録した」「沖縄神社については従来注目されることが少なかったので、写真や図版だけでなく文字資料、基礎文献も収録した」と述べているように、写真や図版が豊富である。本書のような写真を個人で集めようとしたら時間もさることながら、経費も相当かかる。一家に一冊、保存版として所有することを勧めたい。

 本書の写真について思いついたことを記す。戦前の首里第一尋常小学校校庭で、生徒たちが体操をしている様子を捉えた(写真103)の右奥には、鳥居が写っている。沖縄神社の鳥居は初めて見るものだ。そういえば中山門は「下の鳥居」、守礼門は「上の鳥居」と呼ばれたという。(写真065)は1929年発行の湧上聾人『沖縄救済論集』にも載っている。

 那覇市の職員厚生会館で先日、本書の発刊記念シンポジウムがあった。司会は友知政樹沖縄国際大教授が務め、パネリストとして本書の編者である神奈川大非文字資料研究センター客員研究員の後田多氏、加藤里織氏、前田孝和氏が登壇した。また、同センター研究協力者の伊良波賢弥氏と沖縄国際大の田場裕規教授(7月にインパクト出版会から『火難の首里城―大龍柱と琉球伝統文化の継承』を刊行)、首里城復興研究会の伊佐眞一氏も登壇し、報告した。会場からもさまざまな意見や質問が出て盛況であった。

 琉球新報社近くに元県建築士会会長の故又吉真三氏の事務所があり、72年に沖縄関係資料室主宰、沖縄グラフ関西支局長の西平守晴氏と訪ねたことがある。又吉氏は県文化財保護審議会会長を務めた後、首里城復元にも関わるようになった。89年、正殿の柱の色を巡り赤黒論争があった。又吉氏だけでなく前田孝允氏や伊佐氏も巻き込まれ、新聞紙上で話題になった。伊佐氏は顛末を91年『アール・ブール:人と時代』に記した。

 本書に掲載されたふんだんな写真や図版が、令和の首里城復元にも活用されることに期待したい。

 (新城栄徳・「琉文21」主宰)


 かとう・さおり、しいただ・あつし、まえだ・たかかず いずれも神奈川大非文字資料研究センターの研究員。同書は「神奈川大学非文字資料研究叢書4」としてまとめられた。