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男女格差解消は置き去り 価値観多様化に難題 「欧米の過ち軽視」の見方も 共同親権法成立


男女格差解消は置き去り 価値観多様化に難題 「欧米の過ち軽視」の見方も 共同親権法成立 離婚後の親権決定の流れ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 改正民法が17日に成立し、長年続いた離婚後の単独親権が見直されることになった。共同親権を巡っては、離婚後も父母の双方が子育てに関わることができる一方、虐待被害などの継続や再発への懸念も残る。価値観の多様化に合わせて民法の改正は続くが、男女間の格差は解消されず、専門家は「時代の要請に応え、現実に根ざした議論が必要だ」と訴える。 (1面に関連)
 「父が母と離婚してくれて自由になれた」。関東地方の20代女性は、感情の起伏が激しい母から日常的に虐待を受け、風呂に沈められたこともあった。小学生の時に両親が離婚し、父が親権者になると、おびえ続ける生活から解放された。
 「好きなテレビを見てお昼寝もできた。ささいなことができる日常がうれしかった」。中学で不登校になった時も、父は転校させてくれた。「共同親権だったら転校できなかったと思う」と振り返る。
 改正法の規定では、共同親権とされるのは父母の合意か家裁に判断された時だ。法制審議会の議論では、子が表明する意見の扱いを巡り賛否が割れ「子に親を選ばせるのは酷」との考えから見送られた。子どもの意思を顧みない仕組みとなり、女性は懸念を深める。
 改正議論が推し進められた背景には「諸外国は大多数が共同親権だ」との論調がある。これに対し、広島大法科大学院の小川富之客員教授(家族法)は「欧米では別居親の権利を高める改正をした結果、虐待やドメスティックバイオレンス(DV)が軽視された」と分析する。
 実際、面会交流中に子が殺害される事案が米国やオーストラリアなどで続発。オーストラリアでは昨年、子の安全を最優先に図れるよう、同居親の判断を重視するよう法改正した。小川氏は「共同親権導入は諸外国の過ちを繰り返すことになる」と危惧する。
 改正法の審議でも、こうした懸念に対する政府側の見解を尋ねる場面がたびたびあったが、「子の利益」の強調や、家裁の態勢強化を繰り返すばかりだった。
 民法の家族法分野では近年、時代の変化に即した改正が続いてきた。非嫡出子の相続差別規定の削除や女性の再婚禁止期間の撤廃、配偶者居住権の新設など、いずれも前時代的で不合理な制度を現代に合わせた形で見直すものだ。
 これに対し、共同親権を進める合理的理由は見いだせないとの見方もある。お茶の水女子大の戒能民江名誉教授(ジェンダー法)は「単独親権だけの現行制度でも、父母の関係が良好なら共同での養育は可能だ」と語る。その上で「離婚後も女性や子どもに介入を続けたいという父権主義的な発想で推し進められた改正だ」と批判する。
 一方、世論調査で約7割が賛成する選択的夫婦別姓は、1996年に法制審が答申するも、保守派議員の反対で法案提出に至らず、今も棚上げされたままだ。
 戒能氏は、日本のジェンダーギャップ指数の低迷や、いまだに根強い男女間の賃金格差などを挙げ、こう強調した。「弱者の声に耳を傾けず、真にジェンダー平等を実現しないまま共同親権の理想論だけを語るのは不適切だ。現実に根ざした議論をするべきだ」