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融資争奪戦始まる 中小から信頼され続けるか


融資争奪戦始まる 中小から信頼され続けるか 地域金融の現場から
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 日銀が17年ぶりの利上げとなるマイナス金利政策の解除に踏み切ったことを受け、一部の金融機関の間で「融資争奪戦」が始まった。さらなる金利上昇で収益が得られると見込み、今のうちに融資残高を拡大させておく狙いだ。ただ、単純に融資を増やそうとする動きには危うさを感じる。
 関西のある地方銀行は、信用金庫の取引先に融資を肩代わりすると攻勢をかけているという。
 この地銀は、信金を通じて新型コロナウイルス対策の実質無利子無担保の「ゼロゼロ融資」を借りた中小企業のうち「念のために借りただけの優良先」に狙いを絞り、低金利での融資を提案している。既に数十社が借り換えに応じたという。
 北海道では、メガバンクが地域金融機関の融資先に肩代わりを持ちかけているという。
 道内の地域金融機関の関係者は「(メガバンクは)コロナ禍で打撃を受けた中小企業の事業転換を政府が後押しする『事業再構築補助金』の採択リストを使ったのではないか」と話す。
 この関係者は、メガバンクが公表されている採択企業のリストから優良企業を抽出して、借り換えを提案したとみている。しかも借り換えの対象は長期の設備資金だけで、日々の仕入れや給与支払いといった運転資金は貸さないという。
 運転資金を貸さないということは「企業経営に寄り添うつもりはない」という意思表示に近い。借り換えられた金融機関は「『運転資金だけ面倒をみてほしい』という企業も虫が良すぎる」とあきれ顔だ。
 コロナ禍で経営が悪化した企業は多く、ゼロゼロ融資や経営支援を通じて中小企業と地域金融機関の距離は縮まった。コロナ禍をきっかけに融資先企業の経営課題を抜本的に解決しようとする動きも出ていた。
 しかし足元では、マイナス金利解除を受けた融資競争の激化で、中小企業と地域金融機関の関係にひびが入りかねない事態となりつつある。
 金融機関は「晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる」と批判されてきた。金融機関が自らの収益拡大を追いかけるだけでなく、中小企業から信頼される存在であり続けられるかどうかに注目している。(共同通信編集委員・橋本卓典)