有料

ナノ世界のぞく巨大顕微鏡 次世代放射光施設が始動 量子科学技研、東北大に設置


ナノ世界のぞく巨大顕微鏡 次世代放射光施設が始動 量子科学技研、東北大に設置 ナノテラスのイメージ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 量子科学技術研究開発機構(千葉市)などが仙台市の東北大構内に整備した次世代放射光施設「ナノテラス」の運用が始まった。「巨大な顕微鏡」とも呼ばれ、世界最高レベルの性能で物質の性質をナノメートル(ナノは10億分の1)レベルで分析でき、材料科学や医薬品開発の進展が期待される。産業発展の起爆剤にしようと、企業の利用を後押しする動きもある。
 「最先端の研究成果を創出し、日本の競争力を高められる」。運用が始まった4月1日、開発にも携わったナノテラス広報グループの加道雅孝さんが強調した。
 総工費約380億円に上る巨大施設は、全長110メートルの線形加速器と全周約350メートルの円形加速器、放射光を導入するビームラインからなる。光速近くまで電子を加速させ、磁場の影響を受け曲がる際に放射光を出す原理を利用。主に「軟エックス線」という放射光をビームラインに導入して試料に照射する。
 物質表面での電子の振る舞いといったナノレベルの現象を観察でき、ゴムタイヤの状態を元素ごとに分析して劣化状況を調べたり、タンパク質の働きを可視化して薬の効き目をみたりできる。放射光の明るさは太陽光の10億倍とされる。
 国内では長年、硬エックス線を使い物質の構造を解析する兵庫県佐用町の大型放射光施設「スプリング8」が存在感を示してきた。
 だが文部科学省によると、近年は軟エックス線を使った物質の状態や機能分析も重視される。欧米では日本国内施設の100倍もの性能を持つ施設も登場。ナノテラスはこの性能差を逆転しようと文科省を中心に2014年以降に検討を進めてきた産物だ。
 世界最先端の施設だが、行政は利用のハードルを下げようと工夫を凝らす。仙台市は市の利用権を1時間約4万円からシェアする仕組みを用意。整備費用を拠出した宮城県も利用料を減免する制度で後押しする。
 県は放射光施設の有用性を示そうと、ナノテラス運用に先立つ3月、既存施設の利用経験のある企業の成果報告会を開催した。
 調理家電などを手がけるアイリスオーヤマ(仙台市)は、マグロが解凍される時に品質がどう変化するかを分析した結果を報告。溶け出しておいしさを損ねる水分に迫ることができたといい「(品質が変わる)メカニズムが分かれば商品開発に自信が持てる」(同社担当者)と話す。
 背景には「地域産業(発展)の起爆剤になる」(郡和子仙台市長)との期待がある。東北経済連合会は運用から10年の経済効果を1兆9千億円と試算。仙台市の担当者は「宝の持ち腐れにならないよう、意義を周知していきたい」と話した。