毎日のようにどこかで開催されている経済関係のセミナーや講演会。新コーナー「経済耳ぐすい」は取材に赴いた中から、経営改革や新規ビジネス、企業統治のヒントやアイデアにつながるような「耳薬(みみぐすい)」(ためになる話)を紹介します。
初回は価格転嫁を図るための価値の向上について語ったタナベコンサルティング沖縄支社長の比嘉純弥氏による講演です。
多くの企業が資源高や円安の影響を受ける中、価格転嫁の課題を抱える。7月30日の県経営者協会合同業種部会で、タナベコンサルティング沖縄支社の比嘉純弥支社長が価格転嫁に向けた製品やサービスの価値向上の在り方について事例を交えて講演した。
県経営者協会によるアンケートで、価格転嫁が10割できたと答えたのはわずか16・2%(12社)。価格転嫁までに1年を超えた企業は20.3%(15社)あった。価格転嫁の遅れが企業業績の重荷になっている。
現在の日本は「働きやすさ」は良くなったが、賃金が低く、社員の組織へのエンゲージメントも世界で最も低い。悪循環のサイクルを変える必要がある。顧客を創造して、価格転嫁をし、利益を上げる好循環を生む。そのために「価値」を上げていく必要がある。
商品、サービス、自分たちの価値を再定義し、本当に持っている価値は何かを考える必要がある。どう価値を上げるか。それはパーパス(目標)の策定と、新しい経営技術への投資だ。自分たちの価値は何かを見付け、この価値を連携させるシン・バリューチェーン(価値連鎖)をつくっていく。
技術やブランド、デザインなどの無形資産にもっと投資する必要がある。日本企業はこの分野への投資が米企業より圧倒的に少ない。小手先の価格交渉は1~2年は良いかもしれないが、持続的成長にはならない。
例えば米ハワイ州では「111ハワイプロジェクト」がある。中小企業が連携し、上質なハワイ製品の統一ブランドをつくっている。日本はこれまで「安くて良い物」を売ってきた。でもこれからは考え方を変えていかないといけない。
キーエンス(大阪府、計測器メーカー)は営業利益率が55%、社員の平均年収が2200万円。それは価値を提供しているからだ。同社の圧倒的な強みは真の顧客の課題を発見し、製品規格にフィードバックすることだ。川上と川下が一環している。戦略的に値決めできる経営を目指していこう。シェアとブランド力が高ければ、戦略的な値決めができる。
「鶏口牛後」という言葉がある。大きな組織や市場の末端にいるより、小さくてもいいから先頭にいる方がいい。これをニッチトップ戦略と言う。自分たちが価格を決めやすくなる。
今治タオルは今や世界に通じるブランドになった。今治タオルは工業組合80社の集まり。アパレルの広い世界で商品をタオルに絞り、ブランディングしていった。企業再生、地域再生の良い例だ。これが無形価値に投資した結果だ。
これまではデフレ経済、これからはインフレ。大転換期の時には今までにない戦い方が必要だ。企業は環境適応業だ。コストリーダーではなく、クオリティーリーダーとなる必要がある。「値が安い」から「質が高い」へのマインドチェンジが必要だ。
(随時掲載)