子どもたちが北方領土問題を体験的に学ぶ「北方領土青少年等現地視察支援事業」で2023年12月26~29日、県内小中高校生18人が北海道根室市などを回り、元島民ら関係者から話を聞いて学びを深めた。根室市の岬から北方領土の島々を眺め、北方領土問題を「自分事として考えることの大切さ」に向き合った。本紙記者が視察に同行した。
「元島民」やめて
根室に入るのは1日がかりだった。生徒たちは沖縄を出発し2日目の27日朝、市内の道立北方四島交流センターで色丹島出身の得能(とくのう)宏さん(89)から話を聞いた。
得能さんは自己紹介で「もうすぐ90歳になるよ」と苦笑いした。北方領土問題対策協会などによると、1万7291人いた元島民は2023年までに5296人に減り、平均年齢は87.5歳。当事者の高齢化は問題継承の大きな課題の一つとなっている。
得能さんは約1時間、一度も座ることなく、13歳まで暮らした色丹島での思い出を語って聞かせた。捕鯨が盛んだったこと、ロシア人の女の子を好きになったこと。しかしソ連の占領により樺太に追われ、厳しい収容所生活で何人も亡くなったこと、何とか根室にたどり着いたことを語った。
得能さんは以前、1992年に始まったビザなし交流などを利用して色丹島に行くことができたが、2022年になって、ウクライナ侵攻に伴う日本の制裁に反発したロシアがビザなし交流の停止を表明し、島に渡ることができなくなった。
「古里を忘れられない。今でも島に帰りたい。僕の話を『元島民の話』として聞かないでほしい。日本人として、自分事として聞いてほしい」
得能さんはうつむきながらぎゅっと両手を握りしめ、「そうしないと解決しない。忘れられる」とつらそうにした。
得能さんは、沖縄県民への期待感も伝えた。「沖縄はかつてアメリカの統治下にあった。(北方四島と)同じようなことがあった。(当事者の)高齢化など、若い人に伝えることの難しさも分かるはずだ」。得能さんの話に思いを巡らせ、メモを取ることも忘れて聞き入る子もいた。
何ができるか
同センターでは公立根室高校2年の佐藤紅羽(くれは)さん(17)との交流もあった。佐藤さんは高校で北方領土問題を考える研究会に所属している。沖縄の生徒たちは同世代の生徒が活動している姿を見て驚き、率直に疑問をぶつけた。
宮古島市立北中学校3年の宮国愛さん(14)は、言いづらそうに意見を求めた。「北方領土返還に向けて相互理解が大事と言っていたけど、相互理解がどう返還につながるの。この問題のゴールって、どんなことだと思いますか」
佐藤さんは「私見」と断った上で、宮国さんと同じように言葉を選びながら答えた。「活動をしている中で『領土返還させることは、今住んでいるロシアの人から古里を奪うことにもなるのではないか』と言われたことがある。私は、元島民も自由に島に出入りできて、今住んでいる人たちと交流できるといいなと思う。相手の気持ちも理解しないと、交流はかなわないと思う」
宮国さんは交流会後も佐藤さんに駆け寄り、まとまらない気持ちを伝えようと必死だった。「自分は単純に、日本の領土だから返してもらえばいいと思っていた。今住んでいるロシアの人の気持ちは考えてなかった。でも島に帰れない得能さんの気持ちも大事だし…」
得能さんや佐藤さんは、漁業権の問題なども説明した。問題の複雑さを感じ取った生徒たちは「知識を増やすのと理解するのは違う」と、交流前とは違ったまなざしに変わっていた。
(嘉数陽)