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「自分にできること」具体的に 沖縄県内小中学生 宮崎の視察団と交流<戻れない故郷、北方四島 模索する領土教育>下


「自分にできること」具体的に 沖縄県内小中学生 宮崎の視察団と交流<戻れない故郷、北方四島 模索する領土教育>下 根室半島最東端の納沙布岬で、北方館の岩山幸三館長の説明を受けながら北方領土の島々を眺める沖縄の生徒たち=2023年12月27日、北海道根室市納沙布
この記事を書いた人 Avatar photo 嘉数 陽

 北方領土問題を学ぶために北海道根室市を訪ねた県内小中学生18人は、2023年12月27日、色丹島(しこたんとう)出身の得能(とくのう)宏さん(89)と根室高校2年の佐藤紅羽(くれは)さん(17)から話を聞いたあと、根室半島最東端の納沙布(のさっぷ)岬に向かった。「今でも帰りたい」「自分事として考えてほしい」と苦しそうに語った得能さんと、自分にできることを模索し活動を続ける佐藤さんとの出会いによって、生徒たちは「知ることと理解することは違う」と感じ、学びへの姿勢に変化が出始めた。

見えないライン

 「すごい。北方領土って見えるんだ、こんなに近いんだ」。青空が広がったこの日、納沙布岬からは肉眼ではっきりと、歯舞(はばまい)諸島の貝殻島(岩礁)や水晶島、国後島(くなしりとう)が見えた。「一番近い貝殻島までは、ここから3.7キロしか離れていない。この岬との間に、見えないラインが引かれているんだ」。島を指さしながら、岬にある北方館の岩山幸三館長が説明した。館内の望遠鏡からは、水晶島のロシア警備隊監視所を確認できた。

 貝殻島周辺は良質なコンブが採れる。しかしコンブ漁船が日ロ間の境界線とされる中間ラインを越えると、ロシア国境警備局が検査をする。国後島周辺はホッケやスケソウダラの漁場で、以前は漁業協定で定めた協力金をロシアに支払うことで「安全操業」が可能となっていたが、日ロ関係の悪化で2023年は協議ができず、漁師は出漁できないまま1年を終えた。

 「漁師さん、生活できないよね。拿捕(だほ)された人もいるし怖いよね。やっぱり早く返還させないと」「でも普通に暮らしてるロシアの人もいるんだよね」。生徒たちは島々を眺めながら表情が険しくなった。岩山館長は、「沖縄も昔、アメリカの統治下にあったが返還された。沖縄のことのように、北方領土問題も考えてほしい」と、得能さんと同じことを話して聞かせた。

沖縄と北方領土

 同日夕方には根室市内で、宮崎県から視察に来ていた中高生とグループごとに意見交換した。

 宮崎の生徒の多くは「かつてアメリカ統治下にあった沖縄県民が考える領土問題」に興味が集中していた。

宮崎県の中高生(左)と意見交換する、沖縄の生徒たち=2023年12月27日、北海道根室市光和町のイーストハーバーホテル

 「(沖縄は)返還されたけど、でもまだいろいろ問題はあって」。宮古島市立平良中2年の安田凪紗さん(14)は、そこまで言うと黙ってしまった。別のグループでも、宮崎側から基地被害などについて質問が上がった。「騒音、全然うるさくないよ」「でも自分が住んでる所はうるさいよ。騒音で授業も止まるよ」「沖縄は返還されたって、ここに来てよく言われるけど、でも問題は続いているよ」。沖縄の生徒たちの話を聞いた宮崎の男子生徒は「小さな沖縄の中でもこんなに違いがあるんだ」と驚いた様子だった。

 意見交換の後、豊見城市立伊良波中の内山直美教頭は「自分事として考えることの大事さと難しさ」を生徒たちに語った。「どうしたら自分事として考えることができるかな。沖縄県民が考える沖縄のことでも、感じ方や考え方に違いがあるよね。違いがあるからこそ、一つ一つの意見を大事に聞く必要があるんじゃないかな」

 翌日の28日は、標津町(しべつちょう)の北方領土館などで展示資料を見て回った。学びの旅も終盤になり、生徒たちは「自分に何ができるのか」と具体的に考えるようになっていた。

 寄宮中3年の久保田莉子さん(15)は「特定の地域だけで考える問題じゃないと分かった」、竹富中2年の水野晴香さん(14)は「勉強してたつもりだけど、疑問がたくさん出てきた。もっと調べて、周りの人にも伝える」と話した。与那国中教諭の豊見本宏樹さんは「その土地に足を踏み入れて考えたことで、知識に自分の思いが上乗せされたと思う。考えて、行動し続けてほしい」と語りかけた。

 (嘉数陽)