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怒る監督や指導にバツ印 益子さん主催スポーツ大会 子どもたちに自主性芽生え


怒る監督や指導にバツ印 益子さん主催スポーツ大会 子どもたちに自主性芽生え 大会に参加した子どもたちの話に耳を傾ける益子直美さん(中央奥)=山口県山陽小野田市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 元バレーボール日本代表の益子直美さんらが主催するスポーツ大会「監督が怒ってはいけない大会」が10年目を迎えた。バレーボールからスタートし、現在はバスケットボールやサッカーなど他競技にも広がりつつある状況に「怒る指導は間違っているという意識が浸透してきた」と手応えを感じている。
 「監督、今日は怒ってなかった?」。3月に山口県山陽小野田市で開かれたバレーボール大会で益子さんが子どもたちに問いかけた。「いつもは失敗したら怒るけど、今日は大丈夫!」。そんな返事に監督も苦笑い。和気あいあいとした会場の雰囲気が印象的だった。
 大会は2015年に、益子さんが、福岡県でバレーの小学生チームを率いる北川新二さんと妻の美陽子さんと始めた。中高生時代に厳しい指導を受けた経験から「バレーボールが大嫌い」になった益子さんが「子どもたちが怒られる大会は見たくない」と発案。試合中に怒っている監督は「×(バツ印)」が入ったマスクを着けさせられる。
 大会中、益子さんは監督の隣に座り「あの子の良いところはどこですか」と詳しく尋ねるという。その日一日の良いプレーは益子さんも褒めることはできるが、成長の過程を知っている指導者が認めてあげるのが、子どもには一番効果的だからだ。「褒められたことって大人になっても忘れない」
 一方で、怒る指導がなくならないのは「簡単だから」と新二さんは説明する。「目の前でのミスを怒鳴れば、選手に恐怖心を与え、強制させることができる」。対して、褒めるにはプレーを見て考え、探す手間がいる。アドバイスを伝えるにも技術や語彙(ごい)が必要だ。
 監督が怒る背景には、保護者ら周囲が短期的に勝利を望んでいることがある。実際、信頼関係をじっくり築いていく怒らない指導法では「チームのこれまでの試合結果は芳しくない」と明かす。
 ただ、子どもたちの取り組み方は大きく変わった。「もっと練習したい」と言ってきたり、アドバイスを求めてきたりと自主性が芽生える。小学校卒業後に伸びる子が多いそうで、益子さんと北川さん夫婦は書籍「監督が怒ってはいけない大会がやってきた」(方丈社)を3月に刊行し、これまでの活動をまとめた。
 当初、批判的なものばかりだった益子さんへのメッセージも、最近は賛同に変わってきた。
 「好きだからチャレンジできるし、壁を乗り越えられる」と益子さん。そして、指導者の言うことを聞かすだけの指導はこれからを生きる子どもたちの育成に合っていないとも。「不安定で多様な時代には臨機応変な対応力が求められる。スポーツも同じです。指示通りに実行するだけでは生き残っていけません」