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教員の給与どうなる?識者に聞く 中教審が給与制度改革、5月中に方向性


教員の給与どうなる?識者に聞く 中教審が給与制度改革、5月中に方向性
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信社

 公立学校教員の給与制度など処遇改善を巡る検討は、教員確保策を話し合う中教審の特別部会で議論が続いている。残業代の代わりに支給する月額給与の4%相当の「教職調整額」について、10%以上に引き上げる案も浮上。働き方改革や学校の運営体制などと一体的に、5月中に一定の方向性が示される見通しだ。

 教職調整額は1972年施行の教員給与特別措置法(給特法)に基づく制度で、4%は66年度の調査で平均残業時間が月8時間程度だったことが根拠の一つだ。

 一方で現在の勤務実態とかけ離れているとの指摘が絶えない。文部科学省によると、2022年度に残業時間が上限の月45時間を超えた教諭は小学校64.5%、中学校77.1%だった。

 長時間労働の常態化は教員志望者減少の一因とされる。22年度実施の公立小教員採用試験の競争率は2.3倍で、5年続けて過去最低だった。

 一部の教育関係者らは、給特法は勤務時間を抑制する管理職の動機が働きにくく、長時間労働の温床だと指摘。残業代を支払う制度への転換を求めている。だが特別部会では、教員の仕事は職務と自主的な活動との線引きが難しいなどの理由から、給特法の枠内で教職調整額の増額を求める意見が大勢となっている。

 特別部会では処遇改善の議論に先立ち昨年8月、授業時間数の削減など長時間労働是正に向けた緊急提言をまとめている。これに給与制度の在り方も併せ、教員確保に向けた総合的な方策を示すことになる。

識者に聞く

 公立学校教員の処遇改善に向けた給与制度の在り方を巡る議論が、大詰めを迎えている。長時間勤務が恒常化している実態にどう向き合うのか。識者の考えを聞いた。


教職調整額増が現実的 青木栄一・東北大教授

 公立学校教員の仕事は、どこまでが職務で、どこからが自発的な活動なのかという線引きが難しい。多様な児童生徒がおり、24時間対応が求められている面もある。残業代を支払う制度に転換した場合、校長ら管理職が教員の業務を全て把握し、時間外勤務命令を出すなど管理する必要が生じるが、それは難しい。

 こうした教員の職務の特殊性を踏まえ、残業代ではなく、勤務時間の内外を包括的に評価した処遇として導入されたのが、教員給与特別措置法(給特法)に基づき支給される「教職調整額」だ。

 教職の魅力を高め、昨今の深刻な教員不足を解決するには、まずは現実的な処遇改善が必要で、現在4%の調整額を少なくとも10%程度に引き上げるのが妥当だ。負担の大きい担任教員を何らかの手当で処遇することも一つの方策だろう。また定数増や少人数学級など、指導・運営体制の充実を図ることも大切だ。

 一方、学校現場の労働環境が改善しない一因は、文部科学省や教育委員会による指導が十分でなかったことにもあり、長時間勤務の解消は喫緊の課題となっている。

 重要なのが、教育委員会や校長、教頭によるマネジメントの強化だ。管理職研修を充実させ、今後は教員の勤務時間管理も業務だという意識付けが欠かせない。現状の勤務実態を可視化できるよう、学校ごとに教員の在校時間を公表することも早急に検討すべきだ。

 教員の勤務時間などに関する調査・監督は他の公務員同様、労働基準監督署ではなく各自治体の人事行政を担う人事委員会が行うことになっている。全国の地方公務員約280万人のうち4割近くを占める教員の勤務時間管理については、「学校版労基署」のような第三者組織を設置することも求められる。

青木栄一 東北大教授

 あおき・えいいち 1973年千葉県松尾町(現山武市)生まれ。専門は教育行政学。

給特法転換、疲弊解消を 本田由紀・東京大教授

 教員は著しい長時間労働にさらされて疲弊し、少なくない割合が過労死ラインを超えている。その影響は、子どもたちにも及んでいる。

 日本の子どもは、経済協力開発機構の学習到達度調査(PISA)の結果は上位だが、失敗することへの不安が強く、自己肯定感が低いなど、学力以外の重要項目で世界標準をかなり下回る。さらに近年は不登校数が急増している。

 教員が子どもに時間を割く余裕がないことが一因なのは確かだろう。ただ問題は教員個人にではなく、過重な仕事を強いる環境にある。

 授業の持ちこま数は多く、学習指導要領の求める教育内容は肥大化した。児童生徒の生活指導などもある。中教審の特別部会で語られるような「自発性、創造性」といった業務の裁量は、今の学校現場にほとんどない。

 業務の増加に歯止めがかからないのは、教員給与特別措置法(給特法)の「教職調整額」が、対価なしで教員に労働を要求する「定額働かせ放題」を許しているからだ。

 いくら教職調整額を増額しても、勤務時間内で終えられる業務量かを吟味しない構造が維持される限り、長時間労働はなくならない。小手先の改善策を続けても、問題が先送りされるだけだ。

 「管理職が教員の業務を把握し時間外労働を命じるのは困難」として、給特法を維持すべきだとの意見がある。しかし国立・私立学校では残業代が支払われる制度だ。公立学校だけできないという論理は破綻している。

 給与体系を転換すれば多額の残業代が必要になるが、教員に、いかに無理な業務を強いてきたか可視化されることが重要だ。それにより指導要領の内容削減のほか、定数増による1人当たりの授業こま数減や少人数学級の実現といった具体的な是正策につながる。

本田由紀 東京大教授

 ほんだ・ゆき 1964年徳島市生まれ。専門は教育社会学。

(共同通信)