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ゆとり教育は「失敗」か 個性重視、学力低下の批判も


ゆとり教育は「失敗」か 個性重視、学力低下の批判も 「ゆとり教育」を巡る主な動き
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 暗記中心の詰め込み教育への反省から授業内容や授業時間を減らし、社会の変化に対応する「生きる力」を育もうとした「ゆとり教育」。2002年から本格的に始まったが、学力低下を招いたとして批判を浴び、その後は「脱ゆとり」が推進された。だが、ゆとり教育は本当に「失敗」だったのか。

 ■大絶賛

 「みんな大絶賛でしたよ」。かつて文部科学省でゆとり教育の旗振り役を担った寺脇研は、こう振り返る。高度経済成長期に進められた詰め込み教育は1970年代からその弊害が目立つようになり、政財界からも教育の見直しを求める声が上がっていた。
 「落ちこぼれ」や校内暴力が社会問題となる中、旧文部省は「ゆとりある充実した学校生活」の実現を掲げ、学習量を減らして対応しようとしたが「改善しなかった」。首相直属で設置された臨時教育審議会は87年、学歴偏重から個性重視の教育への改革を提言。国際化や情報化への対応が課題だと指摘した。その後、教育現場で思考力や表現力に基づく「新学力観」が採り入れられるなど、段階的に方針転換が図られた。
 「バブルが崩壊し今までのようにはいかないとの危機感があった。経済団体からも、子どもに『ゆとり』を与えるよう求める提言が出ました」

 ■評価軸

 学習内容の3割削減に週5日制の完全実施、各学校が創意工夫して実施する「総合的な学習の時間」の創設―。これまでの画一的な教育を改めようとしたゆとり教育だが、いざ方針が打ち出されると今度は多くの批判にさらされることに。学習塾の宣伝文句が発端になった「円周率を3で教える」との誤解は世間をにぎわせ、メディアは手のひらを返したように学力低下に結びつける報道を始めた。
 2004年、経済協力開発機構(OECD)が各国の15歳を対象に実施した学習到達度調査(PISA)で日本の順位が下がったことが分かると、批判は過熱。ただ「PISAは思考力を問うために00年に新しく始まったテスト。これまでの日本の教育で対応できないのは当然だった」と寺脇は語る。その後、順位に変動はあったものの最新の22年調査ではトップクラスになっている。
 早稲田大教授(教育社会学)の岡本智周は「批判は旧来の学力観に基づいたものだった」と話す。「それとは違う評価軸がある社会を目指してゆとり教育が始まったはずなのに、はしごをはずされてしまったんです」

 ■定着

 11年から実施された学習指導要領は学習量の増加が盛り込まれ、「脱ゆとり教育」と称された。ゆとり教育を経験した1987~2004年生まれは「ゆとり世代」とされ、「競争心がない」「飲み会に参加しない」とネガティブな印象で語られるようになった。
 だが寺脇は「ゆとり教育が目指したものが今になって定着してきた」とみる。週5日制や総合学習は継続され、最新の学習指導要領でも「主体的な学び」や「生きる力」の重要性が掲げられている。「若い人の活躍が目立つようになった。米大リーグの大谷翔平もゆとり世代。思考法にこれまでにない新しさを感じる」
 人工知能(AI)など技術が著しく進化し、多様な価値観が認められつつある時代。岡本は言う。「なぜ学ぶか、それをどう生かすのかを考える必要性が高まっている。ゆとり世代が学んできたことは、実は強みになっているんです」
 (敬称略、田北明大・共同通信記者)