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警視庁の相談専門員 井口由美子さん 少年少女に寄り添い40年


警視庁の相談専門員 井口由美子さん 少年少女に寄り添い40年 新宿少年センターで少年少女を支援する井口由美子さん=2月、東京都新宿区
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 東京・歌舞伎町に家出してきた少年や母親に暴力を振るった少女…。警視庁少年育成課で40年近く、補導されたり、悩みを抱えたりしている子どもたちに寄り添ってきたベテランの少年相談専門員がいる。歌舞伎町の「トー横」や大阪・道頓堀の「グリ下」などに集まる若者の非行が社会問題となる中、警察庁指定の広域技能指導官として各地で経験を伝えている。
 専門員は主査井口(いのくち)由美子さん(60)。東大で教育社会学を学び、心理専門職員として1986年に採用され、千以上の家庭に向き合ってきた。子どもは非行を重ねたり家出したりして親に連れられ窓口に来るケースが多く、大人を警戒して話をしてくれないこともしばしば。「推しの話など興味がありそうな話題から少しずつ入り、助言を聞いてくれる精神状態に持っていくことが仕事」と話す。子どもの接し方に悩む親の支援にも励む。
 忘れられないのは10年以上前、高校生が母親の首を絞めた事件。教育熱心な母親との関係に悩み、追い詰められた末に起きた。井口さんは事件後に高校生と面談した。事件前に相談は受けておらず「適切な支援があれば関係を改善できたはずだった。日々の相談対応がうまくいかなければ、あの親子のようになるかもと怖くなった」。
 近年気になるのが歌舞伎町の「トー横」と呼ばれる一角に集まる子どもたち。市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)が相次ぎ、自殺も起きている。「家庭や学校に居場所がないと感じる子が『あそこに行けば何とかなる』と思える場所を探す構造は昔から変わりません」と解説する。
 今の子どもたちは「生きづらい」と思うとすぐに交流サイト(SNS)で「トー横」や「自殺」などの情報に行き着いてしまうことが多いと感じる。話を聞いても「20歳で死ぬから関係ない」と投げやりに答えてくる。
 そんな時は決めつけたり押し付けたりせず、相手の意思を尊重する。「よく相談に来たね。偉いね」と認めることを心がける。勤務する新宿少年センターの面談室には、小さなことも肯定してくれるペンギンのキャラクター「コウペンちゃん」のカレンダーを掲げる。
 「子どもたちが立ち直るケースは、その子自身の努力。自分にはお手伝いしかできない」と控えめだ。それでも「絶望していた親子が話すうちに『なんとかやっていけそう』と思ってくれた時がうれしい」。来春定年だが、最後まで子どもたちと向き合うつもりだ。