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「平和教育しづらい」教師の声反映を 八重山・育鵬社教科書の不採択 映画「教育と愛国」斉加監督に聞く


「平和教育しづらい」教師の声反映を 八重山・育鵬社教科書の不採択 映画「教育と愛国」斉加監督に聞く オンラインで取材に応じる斉加尚代さん
この記事を書いた人 Avatar photo 明 真南斗

 石垣市と与那国町の中学公民教科書で、保守色の強い育鵬社ではなく日本文教出版の教科書が採択された。教育への政治介入について取材を続け、映画「教育と愛国」で監督を務めた斉加尚代(さいかひさよ)さんに話を聞いた。

 ―今回の育鵬社不採択をどう捉えているか。

 「本来はその地域の子どもたちが学ぶのに最もふさわしい教科書を現場の教師たちの声も踏まえて採択していく仕組みであるにもかかわらず、教育とは異なる政治的意図で育鵬社の教科書が採択された経緯がある。不採択自体は良かった。ただ、教科書全体が国家主義の色に染まってきており、問題が大きい」

 ―背景に何があるか。

 「自民党が下野し、政権を取り戻すに当たって教科書運動は一つの要だった。以前は教育の中身に政治が手を突っ込んではいけないという抑制が自民党内でもあったが、第2次安倍政権以降、モラルが崩壊した。その象徴的な出来事として八重山教科書問題がある。全国的にもこの10年余、学校現場で教師が声を上げにくくなった。石垣市や与那国町でも『従来の平和教育がしづらくなっている』という声が上がっている」

 ―教科書検定のあり方が問題か。

 「2014年の教科書検定基準改定で政府見解に基づいた記述でなければ合格できなくなった。育鵬社に限らず教科書全体が政府見解を伝えるツールになっている。例えば領土について小学校の教科書には政府見解がそのまま書いてあるが、教員の適切な補足がなければ隣国への敵意をあおる危険性がある。大阪府では中国・コリアンルーツの児童も多いが授業中にうつむいて発言できなくなるという状況も聞く。こうした事態を教科書が招いてはいけない」

 ―八重山地区の教科書を巡っては今後どう対応すべきか。

 「教科書採択の透明性を市民から求め続けなければ再び政治が介入する余地を残してしまう。採択の過程で現場の教師たちの声がきちんと反映されているのかどうかを確認できるように市民の目を光らせる必要がある。目の前にいる子どもたちを一番知っている学校の先生たちが適していると思う教科書を選んだ方が子どもたちと学び合えるいい授業ができるのは当然だ」

 (聞き手・明真南斗)