沖縄がロケ地、人間愛と絆を描く映画「風が通り抜ける道」 田中壱征監督と山田邦子さんにインタビュー


沖縄がロケ地、人間愛と絆を描く映画「風が通り抜ける道」 田中壱征監督と山田邦子さんにインタビュー 全国公開を控えている映画「風が通り抜ける道」は、プレミア上映や試写会などですでに多くのファンを獲得。撮影中のエピソードや見どころを、田中壱征監督(左)と出演者の山田邦子さんに語っていただきました。
この記事を書いた人 Avatar photo 饒波 貴子

2024年1月12日から、東京板橋イオンシネマで劇場公開をしている映画「風が通り抜ける道」は、沖縄との縁が深い作品。主人公の大城光が沖縄出身で、彼女を中心に沖縄に関係する人々がたくさん登場していきます。また那覇市や北谷町・うるま市・本部町など本島各地をはじめ、小浜島や竹富島などの離島も含めて実に多くの場所で本撮影。沖縄に残っている「人情・愛情・強さ」をドラマチックに描き、日本全国の風景も映し出される壮大な物語です。

2023年4月に行われた「島ぜんぶでおーきな祭 第15回沖縄国際映画祭」には、原作脚本を手掛けた田中壱征(たなか・いっせい)監督と関係者が来沖し、国際通りのレッドカーペットを歩行。23年5月にはフランスにて、田中監督がSUPER STAR AWARDS CANNESで「BEST FILMS AWARD賞」を受賞し、カンヌ国際映画祭2023では映画「風が通り抜ける道」が正式出品作品までは手が届かなかったものの、特別披露上映を成し、レッドカーペットも歩きました。田中監督のカンヌ出席コメント、そして来沖中に伺った監督と主演の山田邦子さんのインタビュー内容をまとめて紹介します。

聞き手:饒波貴子(フリーライター)

田中壱征監督、カンヌ国際映画祭に出席

2023年5月22日にカンヌで開催された授賞式「SUPER STAR AWARDS 2023 」では、田中監督が個人で「BEST FILMS AWARD賞」を受賞されました。世界三大映画祭のひとつで、毎年5月に開催される「カンヌ国際映画祭」。「風が通り抜ける道」は映画祭公式アテンドホテルで上映し、田中監督はレッドカーペットを歩きました。その姿は、フランス国内放送を通じて世界で一斉放送されました。

「現地時間5月23日21時30分過ぎに、カンヌ国際映画祭のレッドカーペットを初めて歩くことができました。正式出品作品として選定されなかったのは、私の力不足そのものですが、沖縄県の存在を世界のカンヌで少しでもお伝えできたこと、そして、人生一回目のカンヌ国際映画祭のステージに立てたことは、深く感謝しかありません。4月の沖縄国際映画祭・舞台あいさつで、『来月はカンヌへ行って参りますので応援をお願いします』と口にしてしまったものの、内心は不安で結果への期待は持てないままでした。そんな中単身でフランスへ向かいましたが、「ホテル バリエール ル グレイ ダルビオン」にて特別上映され、以外にも「BEST FILMS AWARD賞」も受賞することができました。沖縄のウヤファーフジ様たちのご加護があったかと思いますし、みなさまありがとうございました」(田中監督からのコメント)

以下、田中監督と山田邦子さんのインタビューに続きます。

提供写真
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人物像を掘り下げる、見応えある長編映画

―沖縄出身女性が芸能界での成功を目指すストーリーがメインながら、群像劇やロードムービーの要素があり見応えたっぷりの作品でした。

監督:上映時間は2時間55分。最近の国際映画祭受賞作品は3時間前後の作品がとても多いです。しかし、長くてすみませんという気持ちはありますし、沖縄の方が鑑賞しどう思ったかたくさん感想を聞きたいです。

山田:長い映画なんだけど、でも長く感じさせない不思議な魅力があるんですよ。見応えあると思ってくださるのはうれしいです。

(C)FEEL PICTURES / ISSEY FILMS LLC ALL Right Reserved. ‘風が通り抜ける道’
(C)FEEL PICTURES / ISSEY FILMS LLC ALL Right Reserved. ‘風が通り抜ける道’

―もっと沖縄寄りの映画だと思っていましたが違っていて、主人公は東京在住で北海道や東北、九州に関するエピソードもあり楽しかったです。本作を引っ提げての「沖縄国際映画祭」出席でしたが、感想を教えてください。

山田:国際通りのレッドカーペットはすごくいい天気に恵まれ、沿道からたくさんの方が応援してくださってうれしかったです。東京の友達家族が見に来ていて、知らなかったので声をかけられビックリしました。

―きらびやかなゴールドの衣装、すてきです!

山田:他の方とドレスの色がかぶっちゃいけないと思い、金を着る人はいないだろうと考えました。優勝を決める場ではありませんが、縁起が良くて一番という意味のある金を選んでみました。

監督:こんなに金が似合う大御所、なかなかいないと思います(笑)。

山田:ドレス、靴、バッグは手縫いです。ショールはコシノジュンコさんのデザインで、沖縄の海のイメージに合わせ、海藻のような柄を選びました(笑)。

―多数の出演者がいる本作ですが、キャスティングの苦労を教えてください。

監督:出演者はすごい人数になりましたが、本作を北から南まで、地域性を表現するために不可欠でした。メインキャストさんを先に決め、決して楽ではなかったですが、みなさんのおかげでスムーズに決まりました。

山田:突然でしたよ。「はじめまして」と田中監督にあいさつしたら、出演話をいただいたんです。FM局でお会いして、「こういう映画があって・・・」と説明されました。

監督:2年前ですが、ナンパした訳ではございません(笑)。

山田:ナンパですよ(笑)。「風が通り抜ける道」というタイトルの映画です、とおっしゃっていました。私は2021年に本を出版しましたがタイトルが「生き抜く力」で、同じような内容だったんです。偶然が重なるのは良いことだと思い(笑)、誰が出演するのか聞いてみました。比嘉梨乃ちゃんはかわいらしくて会ってみたいと思える人で、具志堅用高さんは以前同じ事務所に所属していたころから大好き。大林素子さんの名前もあり、SHINOBUはDA PUMPのころから仲良しで久しぶりに会える〜と思い、とにかく大好きな人ばかりがそろっていた映画だったんです。初めてお会いした田中監督でしたが、よく私に声をかけてくださったとうれしくなりました。Bro.KORNちゃんがラジオ局にいるシーンが出てきますが、キューを出していたのがFM局の社長さん。そこで監督を紹介されましたが、思い出すと懐かしい。2年も前のことで、そのくらい長い時間がかかって完成した映画です。

主演を務めた県出身の女優、比嘉梨乃さん (C)沖縄国際映画祭/(株)よしもとラフ&ピース
主演を務めた県出身の女優、比嘉梨乃さん (C)沖縄国際映画祭/(株)よしもとラフ&ピース

監督:出演者の名前を見て「同窓会みたい」と喜んでくださった邦子さんに会ったのは2021年の秋で、2022年7月から本撮影をしました。

―コロナ禍の影響などありましたか?

監督:コロナの影響もございますが、自衛隊の第一空挺団施設内でのシーンをどうしても入れたくて、防衛庁から撮影許可が出るのに、度重なる交渉と懇願に一年強かかりました。

山田:許可をもらうために、どれだけ頭を下げて歩いたんでしょう!? 映画監督は根性、忍耐が要りますね。

監督:本当にそうです、忍耐・辛抱だけですよ(笑)。

山田:普通は許可がおりないような場所が、この映画の中になぜかいっぱい出てくるんですよ。すごいな~、それも作品の見どころだと思いましたね。

監督:1人で出向き、交渉を頑張り続けてきたかいがありました。

―素晴らしい! 理想をかなえるため、監督ご自身が努力されたのですね。中でもラジオ局で、待ち伏せ状態でオファーした山田邦子さん。出演いただきたかった理由を教えてください。

監督:芸能プロダクションの女性社長という役柄が頭の中にずっとあり、邦子さんしかいない!という背水の陣の気持ちでした。オファーさせていただこうと思い、勇気を振り絞ってチャンスを伺い1回勝負で体当たりしました。そしたら出演者の中に共通の知り合い、丈さんもいらっしゃって・・・。

山田:丈さんも仲良しなので、映画共演できるのがうれしかったんですよ。でもなかなか完成しないので、「どうなっちゃったのかしら!?」と気になっていたんです。つながった映像を見る機会がやっと来て、「これは時間かかるわ、全国で撮影しているし」と納得しました。

(C)沖縄国際映画祭/(株)よしもとラフ&ピース
(C)沖縄国際映画祭/(株)よしもとラフ&ピース

キャストが仲良くなったきっかけは!?

―スケール大きな本作には、さまざまなエピソードがありますね。

山田:そうなんです。芸能プロダクションを舞台に、歌手になる夢を追いかけている女の子の頑張る姿を描いていると思っていたら違いました。出演者全員が主役級で、見ている内に誰かにハマるんですよ。自分に当てはめたり、この子は自分の子どもに似ていたりとか。なので不思議なことに作品にファンがつき、何回も見てくださっているんです。

―確かにオバーのシーンで、家族を思い出します。

山田:いいでしょ〜。オバーにやられますよね〜。

監督:オバーのシーン、泣きますよね。スケール大きく仕上げたので、海外の人が見るとブラボーと思ってくださるんですよ!

(C)FEEL PICTURES / ISSEY FILMS LLC ALL Right Reserved. ‘風が通り抜ける道’

山田:乾杯のシーンは日本文化が伝わると思いますよ。全国それぞれの地域、乾杯はこういう感じでするんだと分かるはずです。脚本を最初に読んだ時と全然違うものになったと思っていますが(笑)、乗りかかった船なので各地での上映会などは可能な限り参加することにしました。出演しているケニー大倉と大倉弘也は私と同じ事務所に所属していて、彼らも時間が許す限り上映会に参加しています。実は2人はジョニー大倉さんの息子で、兄弟では今回の映画が初の共演。以前からジョニーさんと仲良くさせていただいてきたので、2人の共演は感慨深く、同じ作品に出演できて私もうれしく思っているんです。この映画はお客さまがタイトルを省略して「風道」(かぜみち)と呼び、集合して何度も見に来てくださるんですよ。まるでファンクラブみたいで、おかしくない(笑)!?

監督:どんどん増えていったら、良い意味でヤバイことになるとは感じておりました。

―作品の魅力に観客が引かれているのですね。登場人物に自分を投影したり共感したりだと思います。

監督:何でも削減しなきゃいけない時代。テレビ番組も「ここが面白い」と、最初から与え過ぎに思えることもあります。本作は「これは何だろう!?」と気になるポイントがあり、自然に入っていける内容で何回も見てくれる方が多いのだろうと思っています。

―出演者がみんな仲良しと聞きました。

監督:とても仲良しですね。

山田:みんなで監督の無茶ぶりを言っているの(笑)。だって撮影現場にいても、何にも分かっていないことがあったんです。監督の頭の中では絵やイメージ・編集点がすべて出来上がっているのですが、私たちにはまだ伝わっていなくて早く内容を教えてほしくて。でも映画の本撮影はこういう風に進むんだと思い、みんなで「こんなシーンがあった、あんなシーンもあった」と報告し合って仲良くなりました(笑)。

監督:いろんな無茶ぶりがあったんですよ。誠に申し訳ありません!

山田:でも完成版を見て、監督が全国のたくさんの人に会って、一生懸命作った作品なのが伝わってきました。本当に温かい方だということも実感しています。昨晩遅くに沖縄に到着したのですが、監督自らコンビニのパンとお水を持ちながら待っていてくれていたんです。温かいですよね(笑)。

監督:祖父母に育てられたので、真心はある方だと。

山田:沖縄でレッドカーペットの日を迎えられて本当に良かったし、監督おめでとうございます!

取り寄せても食べたい、大好きな「タンカン」

―今後はどのような上映計画がありますか?

監督:東京をはじめとした国内、そして海外にもどんどん進出していこうと思います。英語版を見るとまた別角度で泣けるんですよ。

山田:沖縄の言葉がいい! 映画本編では、結構使われていて私は全然分からないんですが、沖縄の方は節々に笑うんですよ。英語字幕が付いて、その面白いせりふが分かるらしいですよ。

監督:藤木勇人さんのせりふなど、英語版はいいですよ。

―山田さんは芸能事務所の女社長。役作りや思い出のシーンについて教えてください。

山田:事務所スタッフを演じた方が泣いたりして、終盤のシーンはグッときました。あとは比嘉梨乃ちゃんが歌うラストシーンがとても良くて、頑張れ〜って気持ちになり大泣きしちゃいました。そこが特に思い出に残っています。梨乃ちゃん演じる光を応援する気持ちは本物だったんです。梨乃ちゃんは普段お客さんの前で歌う機会がないので、バンド演奏に合わせるなどすご〜く練習していました。

監督:比嘉梨乃さんの姿、プロそのものでした。

山田:観客の前で歌うシーンだったので、とても緊張感がありました。エキストラを集めるように声をかけてお客さんに来てもらいましたが、私の実弟もいたんですよ。撮影場所は浜松で、大雨が降った後にすごく晴れてしまい、地面が乾いてシーンが編集でつながらないから「皆で水をまこう」ということになりましたよね。

監督:みんなで水まき、思い出深いです(笑)。大変、ご苦労をおかけ致しました。

山田:まいてもすぐ蒸発するので、私とケニーが水道を見付けて水を流しました。キラキラと水が光りきれいだったのを覚えています。

監督:当映画のラストシーンです!

山田:ラストシーンは泣けてきました。やっぱり比嘉梨乃がかわいいんですよ! すれていなくて役柄のままだと思っています。

監督:比嘉梨乃さんは純粋そのものの人ですね。芸能界の先輩たちとの共演が恐れ多くて、「ここに私がいていいの!?」という雰囲気もありました。そこを頑張って乗り越えてくれた主演だと思います。

山田:彼女は本当に頑張りました。また登場人物がたくさんいるので、とにかく多数のエピソードがありますよ(笑)。

(C)沖縄国際映画祭/(株)よしもとラフ&ピース
(C)沖縄国際映画祭/(株)よしもとラフ&ピース

―沖縄でも鑑賞できる機会が増えるといいですし、楽しみにしています。山田さん、沖縄との縁を教えてください。

山田:沖縄はプライベートでも仕事でも何度も来ています。仕事はバラエティー番組のロケが多いですね。プライベートは友達を訪ねたりして、今年も数回来る予定ですよ。

―来た時はどんな風に過ごしていますか?

山田:国際通りで食べ歩き(笑)。泳いだり釣りに行ったりもします。

監督:邦子さんに映画のポスターを預けて、いろんな所に貼っていただけたなら。邦子さんと具志堅用高さんの力は、本当にすごいと思います。

山田:具志堅さんはすごい。本撮影現場で、せりふを全然覚えていなかったんだって。だけど上手くやっていたでしょう!? 本番前に監督が丁寧に教えて、その通りに演じたそう。トム・クルーズのようなやり方でかっこいいです(笑)。

―沖縄のスター、具志堅用高さん出演映画というのはうれしいです。そして山田さんはかなりの沖縄通のようで驚きましたが、好きな食べ物など教えてください。

山田:タンカンが大好き! 大宜味村のオジーがたくさんくれるんですよ。よく日に当たっていておいしいです。お肉やお魚料理にしぼっちゃいますし、シークワーサーよりもタンカンが好きかな〜。見た目はちょっと悪かったりしますが、すごく好きなので送ってもらったりもします。沖縄にはもう数え切れないくらい来ていますが、来るたびに知らなかったことがあるので、すごいな〜と毎回感じています。

監督:邦子さんは、沖縄名物の中味汁を食べたことないんですよね!? 今度一緒に食べましょうよ。だしがとてもおいしくて大好きです。

山田:田中監督は関東出身ですが、「風道」という大作を沖縄で撮影しました。監督や私も含め沖縄を好きな人たちが本作に関わっています。そしてヒロインを演じた梨乃ちゃんは沖縄出身。沖縄への思いがある人が混ざりあった映画として完成したと思います。

―田中監督だからこその、沖縄の人には撮れないような群像劇に仕上がっていると思います。本作の展開予定を教えてください。

監督:東京渋谷で試写会を開催しながら、次の段階として一般劇場公開と国外上映に向けて頑張ります!

―山田さんの今後の予定も教えていただけますか!?

山田:本作は20年ぶりくらいの映画出演になりましたが、CDを出したりテレビに出たり、毎日楽しく過ごしていきたいです。最近は身近な人が亡くなっていくことが続き、次は自分かな!? と思う時もありますが、ここからは個人差だろうという気持ちです。今日生かされているこのうれしい感じを大切にします。沖縄ではみんなでレッドカーペットを歩き、62歳の今がすごくうれしかった! 以前は後輩のお笑い芸人に「しんどい先輩」といじられ、ムッとしたこともありました。でも、人気番組でそんな風に言ってもらえるってことは面白いんだろうな・・・と思い直して乗っかったら、お笑いの子たちがみんな「邦子さん」と呼んで慕ってくれました。だから嫌がったりせず、やるべきことを頑張っていきます(笑)。

監督:後輩からツッコミが入るくらい、大御所先輩を頑張ってください。

山田:はい、映画にもまた挑戦したいです。

監督:「風道」の続編というか、「日本を大切に想う」新映画を計画しています。また別作品でも、ご一緒できる日を楽しみにしています。

山田:これからのヒューマン作品も、とても楽しみにしていますよ!

インフォメーション

『風が通り抜ける道』

2023年/日本
監督/脚本:田中壱征
出演:比嘉梨乃、山田邦子、藤木勇人、SHINOBU、具志堅用高、大林素子ほか
撮影地:沖縄県、福岡県、佐賀県、熊本県、大阪府、岐阜県、愛知県、神奈川県、埼玉県、東京都、静岡県、千葉県、秋田県、青森県、北海道

公式サイト https://kazemichi.okinawa

劇場:イオンシネマ

饒波貴子 のは・たかこ

那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。