prime

【インタビュー】AI×琉球古典音楽×日本フィル「帰納する音楽会」 落合陽一に聞く


【インタビュー】AI×琉球古典音楽×日本フィル「帰納する音楽会」 落合陽一に聞く 沖縄公演に向けてオンライン取材に応じたメディアアーティストの落合陽一((C)蜷川実花)
この記事を書いた人 Avatar photo 田中 芳

 メディアアーティストの落合陽一が映像演出を手がけ、日本フィルハーモニー交響楽団と協演するプロジェクト「帰納する音楽会」のサテライト公演が23日から県内で初めてある。室内楽形式として23日は首里城公園内の世誇殿(よほこりでん)で、24日は琉球新報ホールでそれぞれ開催される。落合はAIを活用した画期的な映像演出を手がけている。沖縄公演への思いなどをオンラインで聞いた。 (聞き手・田中芳)


―昨年東京での公演では、琉球古典音楽「揚作田節(あぎつぃくてんぶし)」をベースにした「Open Leaves(オープンリーブス)」の映像演出も手がけた。沖縄各地で撮影した写真などを素材に使用し、生成AIを用いて演出した。

 「(フィールドワークを通して)沖縄の歴史や文化に詳しい方々と歩き、斎場御嶽やグスク、お墓などを見て回った。印象的だったのは儀礼に使われる祭具。本州や朝鮮、中国の文化に対して簡素なものを使っていると感じた。もの自体というより行為自体に意味があるというところが面白い」

 「自然と寄り添うミニマムな形は僕にとって新鮮で美しい。岩肌やガジュマルの根、路地を外れて高台に行って見えるものを撮影した。琉球大学の資料館にある古い工工四や(琉球王国時代の)絵巻物、紅型(びんがた)などをサンプリングし、AIから生成していた」

―AIを用いる理由は。

 「人と機械、物質と実質の間に多様な選択肢を示す『計算機自然』は、データからデータへあらゆるものに変換させる。音から映像へ、映像から音へ、言葉から光へ。その意味ではこの新しい自然において万物は音楽であり、言葉も人もまた楽器である。オーケストラと琉球の古典芸能を計算機でつなぐことで、共感覚的な映像や空間演出を生み出すことができる。そうやって流動的に変化し続ける風景は新しい自然であり喜びである」

―デジタルネイチャーとは具体的に。

 「望遠鏡の発明で地球が宇宙の中心ではないことが明らかになったのと同じように、コンピューターの発展により人間中心の世界観から計算中心の自然観(デジタルネイチャー)に移行しつつある。その視座で新しい自然の営みとは何かを日々探究しているのである」

―これまでのプロジェクトでも「五感で感じる、身体で聴く音楽」をコンセプトに、テクノロジーによるオーケストラの鑑賞体験を生み出している。

 「技術の進化とともに歩んできた。全ての感覚が行ったり来たりする体験をもっとより強固にして、オーケストラがそこにいることは、どのような意味があるのか、もっと考えたい」

―沖縄公演に寄せて。

 「一期一会で毎回いろんな表現が変わる。ぜひ現場に来てほしい」

 おちあい・よういち 1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了、博士(学際情報学)。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センターセンター長、准教授。JSTCREST×Diversityプロジェクト研究代表。