県高校野球秋季大会で決勝に勝ち上がり、初の九州切符を手にした八重山農林。選手12人の小さな所帯だが、主砲の砂川将吾ら6人は石垣中時代に全国大会を経験している。高校入学後は大阪から招いた外部コーチの指導も受けながら、県外遠征なども重ね、切磋琢磨(せっさたくま)し実力を磨いてきた。「島から甲子園」へという夢の実現へ、大きな一歩を踏み出すナインは名門・沖縄尚学との決勝(5日)や決戦の場となる九州大会へ向け燃えている。
初戦、2回戦とコールド勝ちで好スタートを切り、宜野湾との準々決勝、具志川との準決勝は逆転で1点差ゲームを制した。快進撃の裏には、主力の2年生の入学時から指導を受け続ける辻建コーチ(27)の支えも大きい。
辻コーチは今年の3月まで監督を務めた砂川玄隆教諭(現宮古総実高)の熱意にほだされ、昨年4月、石垣島に移り住んだ。竹富町役場で非常勤として勤務しながら、外部コーチとして選手とともに汗を流す。
大阪府出身の辻コーチは報徳学園高時代に、選抜で甲子園の土を踏み、1番中堅手として4強入りに貢献した。中京大を卒業後は愛知啓成高、和歌山東高で部長やコーチを務めた。砂川前監督と共通の知人がおり、八重山農林での指導を依頼され、2017年の夏の県大会でベスト4入りしたチームを実際に見て、「能力の高い選手は多い。石垣島の子どもたちと甲子園を目指したい」と決意し、翌年の春から石垣島で暮らす。
辻コーチを招いた砂川前監督は「特に、投手に重点を置いた指導を託した」という。「わずか1年半で九州大会という結果をつかんだ」と教え子たちの活躍を喜びつつ「辻コーチや伊良部悠副部長の成果が大きい」と指導者の力量に太鼓判を押す。4月から指揮する新里和久現監督(うるま市出身)も「砂川監督や辻コーチにしっかり育ててもらった選手たちが、この大会で花開いた」と目を細める。破壊力ある打線にやや隠れるものの、親里大翔、垣本真志、東盛世空の3投手の成長も躍進の原動力と言える。
選手にとっては新里監督同様に、辻コーチの存在が大きいようで、大浜圭人主将は「打席に立った時の投球に対するタイミングの取り方など、新しい発見がたくさんあった」と攻撃面での効果を強調する。4番打者の砂川も「チームとして戦う意識を一人一人が持ってきた」とうなずく。辻コーチは選手の成長を実感しつつ「離島からでも甲子園を目指せるチームをつくり、島の活性化にもつなげたい」と掲げる。
長崎日大高出身の新里監督は高校時代に「仲間たちに甲子園に連れて行ってもらった」経験を持つ。スタンドでの応援だったが「次は監督としてユニホームを着て、甲子園の土を踏みたい」という夢を抱き、指導者の道を選んだ。沖尚戦を前に「浮かれずに積極的な采配を心掛ける」と話す。
8月の県新人中央大会1回戦、具志川商に屈し、悔しさから始動した新チーム。今大会を前に「グラウンドではしっかり走る」「時間は厳守」などプレー以外の約束事を確認し、生まれ変わりつつある。「挑戦者としてぶつかる」(大浜主将)。決勝とその先の九州へ、平常心で臨む。
(外間崇)