ロシア大統領府関係者が本紙記者に語ったことは…【一問一答要旨】


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 新型ミサイル配備を巡るロシア大統領府関係者と本紙記者の一問一答は次の通り。

    ◇    ◇

 ―INF条約で禁じられたミサイルが日本に配備されるという話があるが。

 「INF条約が終了したことを受けて8月26日に米ワシントンでアジアにおける新しい戦略について大きな会議があった。その会議で2年以内に米国がアジアに新型のミサイル、つまり前にINFで禁じられた中・短距離ミサイルを大量に配備する計画が示された。会議では新型ミサイルをどこに配備するかが議論された。まず日本、オーストラリア、場合によってはフィリピン、もし可能であればベトナム、韓国に関しては現在、米朝間で非核化の話が行われているので、今は配備しないことになっている」

 「米側は私にロシアは絶対に心配することはない、全て中国をけん制する目的で配備する、将来的には尖閣諸島や南沙諸島で問題があれば中国をけん制するための措置だと説明した。しかし新型ミサイルが沖縄を含めて日本に配備されれば、ロシアの極東が射程に入る。ロシアにとっては新しい脅威になるのは明らかだ。今までの軍事戦略は長距離の大きなミサイルに対する防衛を前提につくられた。状況は明らかに変わった。ロシアは近いうちに新しい防衛システムを導入しなければならない状況に追い込まれる」

 「INF条約がなくなった時からこの新しい脅威はロシアにとって重要かつ危機感を持たせる要素になりつつある。日ロ平和条約を妨げるすごく大きな要素になっている。今、ロシアの軍事指導部の間では新型ミサイルが現れるので、ヨーロッパより極東の安全が一番ホットな問題になりつつある」

 「この新しい状況の中では残念ながら我々のミサイルを日本に向けることになる。この状況では日ロ関係をよくすることはできないし、平和条約の交渉を加速させることもできない。トランプ大統領は来年の大統領選で再選されると、すぐ日本に対して配備問題を念頭にすごく圧力をかけるつもりだ。なのでロシアは現在、かなり難しい状況に置かれている」

 ―新型ミサイルの具体的な配備場所は。

 「沖縄プラス日本本土になるという理解で米国は動いている。米国はいつも対中国だけと強調しているが、ロシアの軍事専門家は沖縄と日本の本土に新型ミサイルが配備されれば、ロシアの極東においては、南と東の位置になる。新型ミサイルは大きな発射台や大きな軍事基地は不要だ。全く新型なので、移動できるし、簡単に配備できる」

 ―沖縄だけに置かせてくれと日本政府が言ってきた場合、それでもやはりロシアとしては「ノー」か。

 「ロシアにとって何も変わらない。新型ミサイルは5500キロ先も届く。沖縄からほとんどロシアの極東をカバーできる。問題の本質は変わらない。米国の専門家は沖縄はもちろん、北海道を含めた本土に必ず配備されると言っている」

 ―まずは沖縄か。

 「米政府にとっては、沖縄には核密約があるので、沖縄はもう決まっているかのような言いぶりだ。日本本土についても、ロシアの国境にできるだけ近く配備したいと明らかにしている。新技術をベースにした新しい兵器を導入した国が勝つ時代だ。例えばたった5年前はドローン(の軍事利用)に関しては専門家しか考えていなかった。今はもう既にほとんどの国々が軍事にドローンを導入している」

 ―そんな中、日本政府は時代遅れの米海兵隊の軍事基地を沖縄に造ろうとしていることをどう思うか。

 「時代遅れではない。沖縄の軍事基地を米国が必要としているのは米軍機を展開できるからだ。広い地域、中国からフィリピンまでの広い地域をカバーできる。だから沖縄は米国にとって重要だ」

 「近いうちに米国のアジア太平洋地域における軍事プレゼンスの拡大に関する新しいプランが採択される。その拡大プロセスの中で沖縄の位置付けはすごく重要だ。米国の軍事専門家は、大なり小なり今後2、3年に米国と中国の軍事衝突は避けられないとみている。米国はその時に力を見せる必要がある。沖縄に軍事基地がなければ、それは非常に難しい。沖縄の軍事基地は一番大きく機能している」

 ―沖縄の軍事的な重要性が高まると言ったが、そうするとロシアも中国も沖縄に核ミサイルを向ける、そういう状況が生まれるのか。

 「我々は沖縄という言葉を使っていない。日本だ。ただ、もちろん(指摘の通り)だ。プーチン大統領は今、安倍首相からまともな説明を期待している。プーチン大統領の観点から言えば、ロシアの安全保障のレベルは急速に下がっている状況の中で、なぜ日本とロシアの間で平和条約が必要かとの疑問が出る」

 ―もし安倍晋三首相がきちんと安全保障面での約束ができなければ、北方領土や平和条約の話はなしになるのか。

 「私はそう考えている。安倍首相の約束は不十分であることは確かだ。ロシアが納得できる保障、約束ができなければならない。例えば平和条約の中でちゃんと明確に書くなどいろんなやり方がある」

 「例えば平和条約の中で明確に日本の国土でロシアに向けている第三者の兵器を配備しないと明確に書きましょうと一度提案したことがある。でも日本政府は「これはできない。米国との安保条約があるから」と答えた。さらに状況は悪くなった」

 「(INF廃棄条約が失効した)8月2日までと今の状況は全然違う。今の方が難しい」

 ―辺野古の新基地には弾薬庫も整備される。そうすると新型ミサイルも配備される可能性があるので、ロシアからすると辺野古ができることは嫌なことではないか。プーチン大統領も辺野古を話題にしたが、新しい状況ではどう変わるか。

 「もちろん状況を悪化させる。加えて、イージス艦が寄港できる軍港が辺野古に整備されることも状況を悪化させる」

 「一番大きな問題は中国と米国だ。東アジアでは両国が一番爆発しやすい。米国は必ず中国に全ての方向で圧力を増す。中国も米国との軍事的衝突に備えている。中国政府は特にいろんな島々での衝突が必ず起こることを理解している。だから今のところは軍縮交渉に参加するつもりはない」

 ―米国は中国と島々での限定戦争を想定しているのか。

 「限定紛争は十分あり得ると考えている。例えば米国が中国の船を沈没させるとか、逆もあり得る。そんな形での限定紛争の可能性は十分高い。我々もその危険性をよく分かっている」

 ―特に沖縄は尖閣諸島があるので危険性が高いのではないか。

 「もちろん。その通りだ」

 ―今後の見通しは。

 「これからの動きは危険性をもたらす。INF条約がなくなってから世界は軍備拡大の新時代に入ったと言ってもいい。1、2年間以内に大量の新型兵器の生産が始まる。生産すれば倉庫に保存するのではなく、どこかに配備しなければならない」

 「米国にとっては一番やりやすいのは日本だ。簡単だ。その状況においては我々も対抗措置を取らざるを得ない状況になる。日本が好ましくないような措置を取らざるを得ない。残念ながらINF条約失効以降の新しい動きが日ロ関係に悪影響を及ぼす。しかし、今でも安倍首相が何らかのまともな説明をプーチン大統領にすることを期待している。安全保障面をクリアできなければ、平和条約は忘れてもいいと思う」