【識者評論】「アジア限定核戦争」に直面の恐れ 80年代の欧州再現 沖縄、日本に求められるものとは… 中距離弾道弾配備で軍事評論家・前田哲男氏


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前田哲男(軍事評論家)

 トランプ政権による「INF条約破棄」(8月2日)は中距離核戦力における「無条約時代」の到来を意味する。何をもたらすかを考えてみよう。

 前例がある。1980年代の欧州だ。そのころソ連は新型弾道ミサイルSS―20の配備を開始した。射程5500キロ以下なので「戦略核兵器削減条約」に違反はしない。しかし全欧州が攻撃圏内に包みこまれる事態となった。対抗する米・NATO側は「地上発射型巡航ミサイル」と「パーシングII弾道ミサイル」を英、独、伊などへ持ち込む。人びとは「欧州限定核戦争」に直面し恐怖した。

 いま日本周辺で起こりつつある事態は、その再現だ。アメリカは、禁じられてきた中距離ミサイルの再開発に着手、実験成功と発表した(8月18日)。エスパー国防長官は、アジア太平洋地域の米軍基地に早期に配備する考えを示している。

 想定敵は中国とロシアだろう。中国は「グアム・キラー」「空母キラー」と称される中距離ミサイルを既に保有していると信じられている。その場合、有力な配備地が在日米軍基地となる可能性は高い。既にCSIS(米戦略国際問題研究所)のリポート(2018年5月)は「太平洋の盾―巨大なイージス駆逐艦としての日本」という表現さえ使っている。

 秋田市と山口県萩市に配備予定のイージス・アショア。「弾道弾迎撃ミサイル」と説明されるが、発射基は要するに〈容(い)れ物〉にすぎず、そこに新型攻撃ミサイルを格納するのは運用側の決意によりいつでも変更できる(現に海自イージス艦は対艦・対空ミサイルも混合装備している)。

 そう考えると、米政府の「INF条約脱退」は、日本の「ミサイル迎撃システム」を「攻撃システム」に一変させる契機になると予期しておかなくてはならない。

 米新型攻撃ミサイルがロシアと中国に向け配備されると、日本は文字通り「太平洋の盾」となる。嘉手納基地には既にPAC3が24基展開していることも銘記しておくべきだ。

 自民党「敵基地反撃能力」保有論者が歓迎しようとも、国民にとっては、〈80年代欧州〉の再来となる。当時の欧州では「反核草の根のうねり」といわれる国境を越えた市民運動が燃え広がり、それが「INF全廃条約」につながった。

 なすべきことは明らかだ。〈軍拡のシーソーゲーム〉を阻止するため、日米安保の「事前協議」条項に基づき「中・長距離ミサイルの持ち込み、ならびにそれらの基地の建設」に「ノー」の意思表示をする、それが沖縄県民に求められている。
(前田哲男、軍事評論家)