「冷戦時代に逆戻り」 ゴルバチョフ財団のポリャコフ補佐官


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ゴルバチョフ財団で補佐官を務めるポリャコフ氏

 「現在の軍拡への動きはINF廃棄条約が締結された時代と似ている」。1987年にINF条約を締結したゴルバチョフソ連共産党元書記長の補佐官を務めるウラジミール・ポリャコフ氏はこう話す。条約締結に至った背景には、米ソによる欧州へのミサイル配備競争と、それに抗議する「草の根反核運動」の広がりがある。

 77年にソ連がSS―20ミサイルを東欧に配備したことに対抗し、米主導の北大西洋条約機構(NATO)は、パーシングII弾道ミサイルと地上発射型トマホーク巡航ミサイルを西ドイツ、英国、ベルギー、イタリアなどに83年末から持ち込んだ。これに反発した市民らの抗議運動が欧州全土に広がり、ドイツでは100万人規模の反対集会が開かれた。合言葉はヨーロッパとヒロシマの合成語「オイロシマ」。運動の大きなうねりが史上初のミサイル全廃条約締結を後押しした。

 INF廃棄条約は、核軍拡から核軍縮へと歴史を大転換させる契機となった。東西冷戦終結をも後押しし、米ロが対峙する欧州で安全保障の支柱となった。

 しかし今年8月2日の同条約破棄により、冷戦後の軍縮体制は「死に体」に陥ったと指摘されている。「核兵器なき世界」を目指す国際的な軍縮の機運がさらに後退するのは避けられない情勢だ。米国は規制されていた地上発射型の巡航ミサイル実験を実施し、直後にロシアも北極圏に近いバレンツ海から潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験を行うなど、さや当てが既に始まっている。

 ポリャコフ氏はINF廃棄条約締結を促した欧州の反核運動について「ミサイルの標的にされ、家族や友人ら多くの命を奪われるという危機感が一般市民を突き動かした」と振り返る。

 その上で「沖縄をはじめ日本が標的にされる状況と似ている」とし、条約破棄により「冷戦時代に戻った感じだ。当時よりも深刻かもしれない。欧州は苦労して得た大きな成果を失った。中距離ミサイル配備競争の中で欧州にも配備される可能性がある。欧州と日本をつなぐ新たな運動が必要だ」と述べた。国同士が「脅威」の相手ではなく、信頼を回復するための運動も提起した。