「はいたいコラム」 自立した食料生産必要


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 地球温暖化対策について話し合う国連の「気候変動サミット」がニューヨークで開かれ、スウェーデンの16歳の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんがスピーチしたことで話題になりました。国連の報告書によると、温暖化による干ばつなどの影響で2050年までに、世界の穀物価格が最大23%高騰するという予測が出ています。

 ここで心配されるのが、穀物飼料のほとんどを輸入に依存している日本の畜産です。アメリカの余剰トウモロコシ250万トンの受け入れや、日米貿易協定で安価な牛肉や豚肉の輸入が決まりましたが、穀物飼料が今は余っているというだけで、今後は世界的に不足します。食料はお金さえ出せば手に入る時代が終わろうとしているのに、この国の偉い人たちは気付かないふりをしているみたいです。

 食料問題に備えるには依存しない自立した農業が必要です。北海道広尾町の放牧酪農家を訪ねました。小田治義さん(50)は、40ヘクタールの牧草地に40頭の搾乳牛を放っています。就農当時は平均的な規模でしたが周りは大規模化が進み、今では道内でも小規模な牧場です。しかし、面積が増えているのが小田さんの強みです。

 福島県出身の小田さんは、北海道の大学で酪農を学んだ後、放牧に希望を抱いて就農しました。離農していく近隣の農地を引き受けていくうちに面積は倍になりました。飼料の自給で支出を抑え、放牧で労力を省き、優良な経営をしています。規模の拡大をしないほうが、牛の体調管理も行き届き、よく乳を出すので、結果的に収入も安定すると話してくれました。土と草と堆肥の循環を柱に、牛で地域を耕す暮らしです。小田さん夫妻にはお子さんが6人います。長男は大学を卒業後、熊本で酪農の仕事をしながら牧場を継ぐ準備をし、三男も現在、大学で酪農を学んでいます。全国的に酪農家の減少に歯止めがかからない中、一家から将来2人の酪農家が誕生するということは、何より小田さん夫妻の生き方が子どもたちに伝わった証拠です。

 後継者不足はどこも深刻ですが、生き残れるかどうかは、私たち大人の生き方が問われているのです。

 強い農業とは、小さくても自立した生産が分散してあることです。北海道から沖縄まで、土地に合った農業の存続が、自然災害や外部要因に左右されない豊かな食を築くはずです。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)