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無保険横行、安全おざなり…マリン業者が乱立する石垣島で起こっている深刻な問題とは 〈熱島・沖縄経済 第2部〉10


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
マンタに会えることで人気の石垣島のダイビングスポット(ぷしぃぬしま提供)

 今年7月、沖縄県外から旅行で石垣島に来た20代女性は、ダイビング中に船のはしごに手を挟み指を4本けがした。うち2本は骨折という重傷だった。けがに対する業者の対応は全くなく、自力で病院に向かった。

 後日、保険が下りないため業者に電話を入れると、最終的に「これ以上電話をすると弁護士を立てます」とのメールがあったという。女性は現在も治療を続けている。

 八重山ダイビング協会の安谷屋正和会長は「通常、客がけがをしたら一緒に病院に連れて行き、保険会社につなげるなどケアするのが当たり前だ。人として当たり前の接客すらできていない業者がいる」と憤る。

 「シュノーケリングの指導がなくて不安だった」「船の操縦が乱暴でしがみつくしかなかった」「こんな思いをするんだったらもう石垣には来ない」―。八重山ダイビング協会は日々クレームの電話対応に追われている。そのほとんどが会員ではない事業者に対するものだという。

 マンタにあえる海として観光客からもマリンスポーツの人気が高い八重山地域だが、需要を狙って業者が乱立し、安全性の低い業者が事故を起こすなど質の低下が問題となっている。

 万が一事故が起きた時の応急処置の訓練ができていない業者も増えていると想定され、保険をかけていない悪質な業者もある。その分安い価格をうたって集客し、ウェブページの見せ方もうまいため客が流れやすい。

 八重山地域では今年に入ってから8月末までに、マリンレジャー中の水難死亡事故が5件も発生している。全て協会の会員ではない業者によるものだった。安谷屋会長は「ダイビング客には持病を持つ人もおり、事故を完全に無くすことは難しい。事故が起きた時にどれだけの確率で客を助けられるかが重要だ」と強調する。

 またショップを持たずに、公共の場を占領して機材の貸し出しを行うなどの迷惑行為もある。石垣島の人気ダイビングスポット青の洞窟近くでは、石垣市米原のヤエヤマヤシ群落の無料駐車場を占領する業者がおり、さらに併設のトイレで客を着替えさせる行動も見られる。管理者の石垣市はトイレに注意を促す張り紙を貼っている。

 マリン業者の乱立は、設立に許認可が要らず、申請だけで営業を始められる「届け出制」が要因の一つといえる。県警によると八重山地域の潜水業(ダイビングなど)の届け出件数は13年が173件だったのが、18年8月末時点で238件となっている。

 そのうち八重山ダイビング協会に加盟しているのは80社で、安谷屋会長は「届け出さえしていない業者もはびこっている」と指摘。無届けで営業している業者を合わせると約300業者はいるといい、実態が見えない部分もある。

 同協会は7月に石垣市長に対し、マリンレジャー業者の「許認可制」導入を求める要請を提出した。生命の危険と隣り合わせのマリンレジャーで、事業者のサービスレベルの確保が深刻な問題となっている。
(「熱島・沖縄経済」取材班・中村優希)