好景気なのになぜ…全国最下位の労働生産性 稼ぐ力向上に向けて質を重視 〈復帰半世紀へ・展望沖縄の姿〉5


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新たなホテル建設が進む那覇市の国際通り=10月1日

 「この好景気が県民一人一人に届いていないのではないか」。県内企業の生産性を高めるため、8月、県は庁内にプロジェクトチームを発足させた。商工労働部、農林水産部、文化観光スポーツ部と企画部の4部局を横断した「企業の『稼ぐ力』と『ブランディング力』向上対策プロジェクトチーム(PT)」だ。

 チームを統括する島袋芳敬政策調整監は「県が地元の食品など特産品企業を束ねて県庁内に営業本部を立ち上げるイメージだ」と説明する。その目的について、日銀のレポートで沖縄県が雇用者所得だけでなく、企業所得も全国最低水準と指摘されたことを踏まえ、「企業の収益力向上によって県民1人当たりの所得増加につなげたい」と語る。残り2年余となる沖縄振興計画の期間も見据え、県経済が好調な今を取り組みの好機と捉えている。

 沖縄総合事務局が今年2月に取りまとめた報告書では沖縄県の労働生産性(労働者1人当たりの働いて生み出す物やサービスの価値)は全国平均の7割台の水準にとどまっている。労働生産性は都道府県別で比較すると全国最下位。業種別で見ても農林水産業は43位、情報通信業は最下位だ。一方で宿泊業や小売業は全国平均を上回るか、下回っても差は小さい。

 なぜ労働生産性が低いのか。一つには小規模事業者が多いことが上げられる。沖縄県は平均で1事業所当たりの事業従事者数は9人で1事業所当たりの付加価値額は3415万円。1人当たりの労働生産性は380万円だ。これに対し、全国は1事業所当たりの事業従事者数は11・1人で1事業所当たりの付加価値額は5949万円、労働生産性は536万円だ。全国と比べると、沖縄県は稼ぐ金額に比べ、より多い人数を割いていることが分かった。

 県内1300社が加盟する県中小企業家同友会の喜納朝勝代表理事は「規模が小さいから生産性が低いというのは耳の痛い話だが、中小企業がいかに生産性を高めていくかが大事だ」と強調する。「『安く買う』から『良いものは高く買う』という価値創造の経営が大事になっている」と語る。同友会は毎年加盟各社にアンケートを取り、県に政策を提言している。今年は企業の生産性向上に直結するIT活用支援などを提言した。

 県もこうした提言を重視し、今後、「稼ぐ力PT」でも生かしていきたいとの考えだ。県経済の状況を分析している県企画調整課の兼島篤貴主幹は「今まで雇用を生むことに注力してきたが、量が満たされ、『量より質』の時代に移ってきた」と話す。

 特に県内の産業構造の84%(2015年度)を占める第3次産業の底上げを図ることを重視する。今後、本格的に始まる県の「稼ぐ力PT」でいかに中身を伴う経済にできるか、県の政策立案能力と実行力が問われる。
 (中村万里子)