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路線バスの運転手が次々と辞めていくわけとは… 深刻化する人手不足 〈熱島・沖縄経済 第2部〉13


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
県民だけではなく多くの観光客が利用する県内の路線バス=15日、那覇市

 観光を中心に建設や流通業が活況を呈している沖縄で、バス運転手の人材不足が深刻化している。路線バスの運転手が待遇のいい観光バスの会社などへ転職するケースが見られるほか、定年退職者の増加も懸念される。人材不足により路線バス各社は減便を余儀なくされ、住民生活に影響が出ている。重要な公共交通機関である路線バスを守るため、行政や関係各社の取り組みも進んでいる。

 「人材不足で路線バスの現場は過酷になっている」。県内のバス会社で勤務経験のある元運転手の男性は、厳しい状況を説明する。沖縄を訪れる観光客の増加と比例するように観光バスの事業者は増えており、県外や海外からの参入も続いている。男性は「経験豊富な路線バスの運転手がいれば、すぐに観光バスから声を掛けられる」と語る。運転手が1人引き抜かれると、待遇の良さを聞いたほかの運転手も観光バスへ転職するケースもあるという。

 路線バスの運転手が辞めることで現場の業務はさらに厳しくなり、元運転手の男性は「みんなが疲れ切っていた」と振り返る。長距離の路線に乗務した場合でも休憩はほとんど取れず、運行時間に合わせるために速度超過をすることもあるという。運転手の負担軽減のため減便しても、県民が利用できないなど課題が出ている。男性は「利用者のことも考えながら、運転手の負担軽減ができる案を出さないと何も変わらない」と訴える。

 県のまとめによると、2017年から19年までに、県内路線バス4社では約300人が定年退職になると見込まれる。4社合計の採用者は年間で65人程度にとどまっており、今後も運転手不足は深刻化する可能性が高い。

 県バス協会の小川吾吉会長は「各社ともに現場の労務負担が増えている。運転手の負担軽減のため遅い時間の路線バスを減便せざるを得ない」と苦しい胸の内を明かす。県経済は観光以外に建設や流通も好調で、運転手が他業種に移ることも増えている。小川会長は「沖縄もいずれは少子化が進んで働き手が少なくなる。今後は運転手の取り合いになるのではないか」と懸念する。

 運転手の確保に向けて、路線バス各社は免許取得費用の補助などを行う。バス運転手の仕事を紹介するセミナーも開催し、多くの人材を呼び込むことを目指す。県は各社の乗務員が免許を取得し、現場で戦力になるまでの一定期間、賃金の一部を補助する事業を導入する方針だ。小川会長は「関係機関が努力を続けることで、将来的には減便した路線も元に戻せるはずだ」と強調する。県民にとどまらず観光客も利用する路線バスを維持するため、今後もさまざまな施策を進める考えだ。
 (「熱島・沖縄経済」取材班・平安太一)