インターネット上、会員制交流サイト(SNS)での発信が話題になっている人物に取材をした。
「本名を教えてほしいのですが」
「記事はハンドルネーム(本名の代わりに用いる呼び名)でお願いします」
対象者の名前や年齢、職業、居住市町村など基本事項を確認して記載することは当然だという共通認識が記者にはある。本名ではなく仮名で通してほしいと取材対象者に求められると驚くとともに、どうしようか、と悩むことになる。ネットの浸透でこのようなケースが増えてきている。
先日、写真共有アプリのインスタグラムで約30万人のフォロワーがいる「きらめく星のなったん」さんを取材した。7月に出した本は3刷を超えたが、芸能人ではない。顔写真は公開しているが本名や年齢は非公開だ。本人から本名は公開せず、提供写真を使うように求められた。要望通り記事を掲載したところ、社内からは「本名を明らかにしない人を大きな記事にしていいのか」「匿名を求める人が増える」などの指摘が相次いだ。
一方、同様な取材を経験した記者からは「掲載するためにはやむを得ない」「本名を記述しなくても報じる必要のある内容なら容認するべきだ」との声もあった。
通常の取材でも取材対象者が本名を明かさないケースが増えている。不特定多数の声を集めて記事にする場合、名字だけにとどめたり、仮名で表記したりすることを求められると、いいコメントだと思っても記事には書かない場合が多い。
ただ、取材対象が1人でその人が匿名を求める場合、判断に窮する。事件・事故に関する内容では匿名の記述は多いが、近年増えているのがSNSやユーチューブなどで独自に発信し、ある一定の知名度がある人だ。このような人々は発信の内容によってネット上で批判されたり攻撃されたりすることがある。プロフィルが明かされた場合、名前を検索され個人情報や過去の言動がネット上で公開されるなどの被害を受けることもあり、それを避けることなどを理由に匿名を求める事案が増えている。現状では匿名の記載を求められた場合、一定程度許容することもある。
だが名前などプロフィルを明らかにしない場合、記事の内容が正しいか判断する根拠の確認手段を減らすことになる。さらにネット上では偽の画像や動画が飛び交っている。現状では「なったん」さんのようにSNSのフォロワーの数を評価基準にすることは可能だが今後、フォロワーの数の信頼性などが揺らぐ可能性もある。ネットなどバーチャルの世界で活躍する人の行動をどう把握し、どのような尺度で評価したらいいのか、難しい局面に直面している。
(宮城久緒)