ソフト重視へ 転換探る 沖縄経済シンポジウム詳報(上)


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 那覇市泉崎の琉球新報ホールで18日に開かれた沖縄経済シンポジウム2019(主催・かねひで総合研究所、共催・琉球新報社)では、有識者や県内経済関係者が沖縄の自立経済について意見を交わした。基調講演では琉球大学名誉教授の大城肇氏と、沖縄大学・沖縄国際大学特別研究員の宮田裕氏が沖縄の未来に向けた提言をした。パネルディスカッションでは、沖縄ツーリストの東良和会長と金秀グループの呉屋守将会長を交えて話し合った。

<基調講演>幸福度向上の政策へ 大城肇氏(琉球大名誉教授)

大城肇氏(琉球大名誉教授)

 琉球大学の大城肇名誉教授は「持続的自立経済の確立に向けて」と題して講演した。

 貧困問題などの課題を解決し豊かな沖縄を実現するために、現行の沖縄振興体制に代わり課題解決型の政策を重点的に実施できる「沖縄創生基本法(仮称)」の制定を提案した。これまでの振興計画で「ハード面は全国との格差が是正されつつある」とした。一方で低所得や貧困問題、非正規雇用の多さなど、ソフト面での負の格差が構造化していると指摘した。

 経済の自立について、県内の物的生産力が6%台と低く、県外から物を移輸入して県内で消費する構造のため、域内自給率が66%前後と低水準にとどまっている現状を説明した。「県内のお金の2~3割は県外へ漏れている。ざる経済の体質が半世紀近く改善していない」と話した。

 沖縄の未来像として自立、イノベーション、平和、持続可能性に満ちた島という意味の「IIPSアイランド・オキナワ」を提唱した。実現方策として、県内企業を基盤とした産業集積、中核人材の育成、アジアとの連携の活発化などを上げた。

 県内自治体の予算確保の手法として「安全保障・国境保全交付金を新設して沖縄創生基金とし、県や市町村の裁量で運用できる仕組みにしてはどうか」と提案した。

<基調講演>社会的弱者の視点を 宮田裕氏(沖大・沖国大特別研究員)

宮田裕氏(沖大・沖国大特別研究員)

 沖縄大学・沖縄国際大学特別研究員の宮田裕氏は「沖縄振興~償いの心は果たされたか」と題して講演した。

 宮田氏は元内閣府沖縄総合事務局調整官として、第1~3次沖縄振興計画事務に携わった。沖縄振興計画が2021年度に期限切れを迎えることから、同計画が県経済に与えた影響を検証し、自立経済の構築に必要なことを紹介した。

 沖縄振興特別措置法に基づく「高率補助制度」に対して、県内有識者から不要論が出ていることについて、宮田氏は「高率補助が廃止されれば沖縄経済は大きなダメージを受ける」と指摘した。廃止した場合の県財政について、検証が必要との考えを示した。

 沖縄振興の現状について「復帰時と比べて農林水産業と製造業の割合は低下した」と話す。復帰時の県内総生産額に占める1次産業の割合は7・5%だったが、16年度は1・8%に、2次産業は22・5%から15・3%に減少。約11兆円の沖縄関係予算が産業振興に活用されていないと指摘し「極めて効率の悪い経済を作り上げた」と強調した。

 子どもの貧困や社会的弱者の対策が振興計画にないことも「重大な欠点」と述べ、次期沖縄振興計画で導入を検討するよう求めた。


<登壇者>

▽大城肇氏(琉球大学名誉教授)

▽宮田裕氏(沖縄大学・沖縄国際大学特別研究員)

▽東良和氏(沖縄ツーリスト会長)

▽呉屋守将氏(金秀グループ会長)

▽コーディネーター=島洋子(琉球新報社編集局次長兼報道本部長)