経済

「はいたいコラム」 家畜が耕す水田

 島んちゅのみなさん、はいた~い! 鹿児島県霧島市竹子にある萬田農園を訪ねました。山間の集落で、水田を主体にアイガモ、ヤギ、ニワトリも飼っています。園主の萬田正治さん(77)は鹿児島大学の副学長を退職し、2003年から夫婦でこの地に移り住みました。専門は畜産ですが、研究テーマは、アイガモ農法とトカラヤギ、さらにニワトリの育種改良にも取り組んで、「有畜複合経営」を提唱しています。

 田んぼや畑を耕しながらヤギやニワトリを飼う農家は、昔はあちこちに見られましたよね。今では少なくなりましたが、実は理にかなっていたのです。家畜の役割は、いわゆる肉や卵などの畜産物(食料)に加えて、ふんによる土作り、耕作や運搬などの動力にもなります。さらに、人間の食べないものを餌にするのですから、食品ロスの解決もしてくれます。

 有畜複合経営とは、多様な生き物が、個々の役割を精いっぱい発揮する有機的で循環型の、いわゆる持続可能な農業システムなのです。

 萬田農園が商うのは、農産物だけではありません。田主の会というオーナー制度で都市部の人たちや学生に農業体験を提供し、「霧島生活農学校」と名付けて勉強会を開くなど、学びの場にもなっています。

 また、萬田さんは現場を歩く中で、産業としての農業と、暮らしとしての農は、別に論じるべきだという考えに至りました。そこで、小さな家族農業の重要性を訴える「小農学会」の代表も務めています。さまざまな人を農に巻き込む中で、改築した納屋でカフェを始める人まで出てきました。管理栄養士をしていた讃井ゆかりさんは、この春から農作業を手伝いながら週3日、店を開いています。ごはん、自家製味噌、野菜、卵、アイガモのランチが人気で、来た人がお米を買って帰るといううれしい連鎖も生まれました。

 萬田さんに、稲刈りを終えた田んぼを案内してもらいました。近頃見かけなくなった稲架(はさ)掛け(稲干し台)が並んでいます。聞くと、今は病気で入院中の奥さまが以前、自宅のベッドから田んぼを眺め、「お父さん、コンバインは便利でいいけど刈った後は寂しいね」とつぶやいたそうです。以来、萬田さんはずっと天日干しを続けています。干す2週間は雨風のリスクがあり、手間もかかりますが、この方法を変えるわけにはいきません。そこには祈りが込められているのです。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)









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