ハンガリーの情景を奏でる ジュール・フィルハーモニー、県内初公演 那覇市出身の女性が念願かなえる


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ドヴォルザークの「交響曲第9番『新世界より』」を演奏するジュール・フィルハーモニー管弦楽団=20日、西原町のさわふじ未来ホール

 ハンガリー・ジュール市の管弦楽団「ジュール・フィルハーモニー管弦楽団」の公演が20日、西原町のさわふじ未来ホールであった。同団所属で那覇市出身のバイオリニスト、ベルケシュ・砂川亮子が、夫で指揮者のカールマン・ベルケシュと団員を連れて念願だった初の沖縄公演を実現させた。ジュール・フィルの奏でる叙情的で気品に満ちた演奏に客席から感動のため息が聞こえた。

 ハンガリーの作曲家、コダーイの「ガランタ舞曲」で幕は開けた。序盤、ビオラとチェロのどっしりとした音が放たれ、続くホルン、クラリネットが深みのある音を心地よく鳴らした。中盤ではフルートとピッコロ、弦楽器のピチカートがかわいらしく響いた。終盤に差し掛かると踊り出すような勢いで疾走し観客の心をつかんだ。

 2曲目はピアニストの大藪祐歌を迎えて、リストの「ピアノ協奏曲第1番」を演奏した。第1楽章、大藪の雄々しく華やかなピアノの音色がきらりと輝き、そこにジュール・フィルが違和感なく溶け込むように音を重ねた。第3楽章では、快活なリズムでピアノとトライアングルが掛け合い、印象を残した。ハンガリーのリスト音楽院に留学経験のある大藪とジュール・フィルとのコンチェルトはとても息が合い、楽しそうに演奏していた。客席からは拍手が鳴りやまず、大藪はそのままソロでリストの「愛の夢 第3番」を演奏し、観客をうっとりさせた。

 トリはドヴォルザークの「交響曲第9番『新世界より』」。硬軟織り交ぜたエネルギッシュな演奏だった。第1楽章では勢いのある演奏を繰り広げ、第2楽章に入ると木管楽器とバイオリンによる優しい音色で聴衆を引き込んだ。第4楽章では、カールマンが切れよく指揮棒を振り、ダイナミックな演奏を展開するが、最後は余分な感情は入れずにあっさりした音で締めくくった。

 大きな拍手に包まれたジュール・フィルは観客のアンコールに応え、ブラームスの「ハンガリー舞曲第1番」を披露した。

 叙情的で、どこか寂しげなジュール・フィルの演奏は本場ハンガリーの土地の香りと美しい情景を漂わせた。公演を終えて砂川は「沖縄の人たちにハンガリーという場所を音で感じてもらいたかった」と語る。「沖縄の多くの方々に協力していただき、公演を実現することができた」と感謝を伝えて「自分たちの演奏を両親の前で披露することができて感謝でいっぱい」と喜んでいた。
 (金城実倫)