米ミサイル配備へ圧力 「住民の反対は影響しない」 ロシア国営通信社軍事オブザーバーインタビュー


社会
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イタル・タス通信社のビクター・リトフキン氏

 米ロによる中距離核戦力(INF)廃棄条約が8月2日に破棄されたことに伴い、条約が製造を禁じていた中距離ミサイルを米政府が沖縄をはじめ日本に配備する計画があることが判明した。沖縄など日本配備の可能性や北方領土問題への影響などについて、ロシア国営通信社イタル・タスの軍事分野オブザーバーで、テレビなどでコメンテーターとしても活躍するビクター・リトフキン氏に話を聞いた。

 ―INF破棄により世界情勢はどう変わるか。

 「安全保障の分野でさらに緊張が増すことは間違いない。欧州とアジアで、米国は既にイージス・アショアのMk41発射装置から(INF廃棄条約で禁止されていた)トマホーク中距離巡航ミサイルの発射実験をしている。ルーマニアに既に建設した発射装置やポーランドに現在建設中の似たような発射装置に置くことも可能だろう」

 「ロシアが『迎撃ミサイルだけでなくトマホークもMk41発射装置で使える』と米国に対して指摘すると、米国防総省はいつも地上では不可能だと主張していた。だが可能だと分かった。最近行われたこの発射装置からのトマホークの地上テストが証明した」

 「もちろんロシアは、米国の中距離巡航ミサイルや中近距離弾道ミサイルの欧州やアジア配備に無関心ではない。プーチン大統領は『そのようなミサイル配備を始めることはない』と言った。だがもし米国が欧州や東南アジアに配備するようならわれわれも、自国領土にミサイルを配備したり米国のミサイルが置かれた場所を狙ったりするなど対応しなければならない」

 ―日本や沖縄への配備の可能性をどうみるか。

 「アジアでは、最初に韓国や日本の米軍基地に置かれるだろう。韓国や日本の指導者からは、米国の中近距離ミサイルを受け入れるつもりはないと聞くが、米国との防衛上の条約では米国が望めばミサイルを受け入れなければならない」

 「沖縄へ配備されれば、モスクワは、米国のトマホークやそのほかロシアを脅かすミサイルの位置を、ミサイルの標的にすることになる。米国の基地がある場所なら、普天間であろうと辺野古であろうと関係ない。沖縄や本土の米軍基地近くの住民の反対は米政府の決定に影響を与えるとは思わない。米国は目標達成のために非常に大きな政治的、経済的、情報の圧力を日本政府にかけるだろう」

 ―北方領土問題への影響は。

 「中近距離ミサイル配備の可能性は、確実にモスクワと東京の平和条約締結への交渉や北方2島返還問題を複雑にする。ウラジオストクの最大港で軍事基地、コムソモリスク・ナ・アムーレ(ロシア極東部)の航空機工場、核潜水艦の造船や修復を行うボリショイ・カーメニの造船所などロシアに近い所に(ミサイルが)現れることを警戒している。われわれの国にとって重大な脅威であり適切な対応を取らなければならない」

 ―今後のロシアの対応は。

 「ロシアにとって安全保障は、その他の国でもそうだが、最大の優先事項だ。モスクワは防衛する法的権利を持っており、米国が中長距離ミサイルで脅威をもたらすなら、その権利を行使する」 (聞き手 新垣毅)