安い、きつい仕事で人手不足 IT業界 下請け構造脱却が課題〈復帰半世紀へ・展望沖縄の姿〉8


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情報通信関連産業の高度化・多様化に向けた課題について話し合う県振興審議会の第4回産業振興部会=25日、県議会

 県内IT企業にシステムエンジニアの社員から届いた1枚の書類。弁護士の印鑑が押された退職届だった。最近流行の退職手続きを代行する「退職代行」で、翌日から社員が出勤することはなかった。

 中小企業や小規模事業者の経営相談を受ける「県よろず支援拠点」のコーディネーターでIT企業を経営する仲宗根功氏はシステムエンジニアの仕事を「安い、きつい仕事」と話す。同業者からも「入社するけど辞めていく。どうしたら人が辞めないか」といった相談が多いという。

 県は、IT産業を観光リゾート産業と並ぶ第2のリーディング産業として振興を進めてきた。一方で25日の県振興審議会産業振興部会で県の担当者は、ソフトウエア開発1人当たりの年間売上高は全国平均を下回り、沖縄21世紀ビジョン基本計画で定めた成果指標達成の進展は遅れていると説明。委員からは沖縄科学技術大学院大学(OIST)との連携やグローバル企業を出すための支援への要望などがあった。

 IT業界の実情は深刻だ。ソフトウエア開発は建設業と同様の構造となっている。上流工程ほど儲けが大きいが下流工程は少なくなる。県ソフトウエア事業協同組合の幸地長秀代表理事は「仮に上流工程の単価が200万円だと、下受けはその3分の1の60~70万円程度しかない」と話す。本土の企業などが上流工程を受注し県内に回ってくる仕事は下請けが多いという。

 人手不足も深刻だ。県内300社ほどあるソフトウエア会社のうち、ほとんどが10人以下の小規模事業者で、案件が増えても仕事を受けきれない。本土メーカーが県内に事業所を開設し、採用を進める一方で、県内企業は上流から下流まで担当できる人材が少ない。幸地氏は離職者の多さに懸念を示し「県の予算で中堅人材を育てるための講習を増やしてほしい」と話す。仲宗根氏は「事業承継できない県内企業が多い中、行政による統合への支援も必要だ」と指摘する。IT業界が高度化や高付加価値の仕組みがないことも問題だという。

 今、県が力を入れているのがリゾートとITを融合した国際IT見本市「リゾテック」だ。昨年7月には沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)を設立し、多くの産業とITをつなぐ実証事業などにも取り組んでいる。ISCOの支援を受け、那覇市のマギー社が取り組んでいるのが「IOT端末データ通信事業」。小売店のレジの情報を収集・分析し、メーカーから社の開発したアプリで消費者に広告を流す事業で全国でも大きな注目を集めている。

 ただ、成功を収めている会社は県内でも一握り。県主導で進めるIT産業の振興だからこそ、厳しい課題を抱える業界と連携した検証や、今後の道筋をどう描くかが問われている。

(中村万里子)