岐路に立つ沖縄 ゴルバチョフ元ソ連大統領が警鐘を鳴らすこととは…【新冷戦と沖縄―ミサイル危機】


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クレムリンの「赤の広場」。ロシアが誇る歴史的テーマパークとも言え、大勢の観光客が訪れる=9月18日夜、ロシアのモスクワ

 中距離ミサイル配備計画などを巡るロシア取材を振り返り、沖縄の課題を探った。

 戦争の危機を対話で解決する信念の強さに心を打たれた。世界が核軍拡へ風雲急を告げる今だからこそ、その言葉は、より強い輝きを放っていた。「我々は皆、一つの惑星、一つの人類であることを忘れてはならない」。東西冷戦を終結に導いたミハイル・ゴルバチョフ氏の非戦や核廃絶への思いである。

核配備に警鐘

 かつて超大国ソ連を指導し冷戦を終わらせた“巨人”は現在88歳。病と闘い通院しながらも、世界の軍拡への強い危機感と、立ち返るべき理念を発し続けている。自身がレーガン元米大統領と結んだ中距離核戦略(INF)廃棄条約が8月2日に破棄されて以降、その思いは一層強いようで、通訳を遮り語りは熱かった。彼は核廃絶を「必須」と強調する。決して悲観的ではなく、必ず実現できるという信念に裏打ちされていた。

 3度も訪問し強い思い入れのある沖縄にも重いメッセージを放った。レーガン氏の言葉を引用した「信用せよ、されど検証せよ」である。日本復帰以降も核兵器の存在が疑われ、今後も持ち込まれる可能性のあることに警鐘を鳴らした。

 核兵器の検証態勢づくりは沖縄はじめ日本にとって死活問題だと直感した。というのも彼と会う2日前、ロシア大統領府関係者への取材で、金づちで頭を殴られたような大きな衝撃を受けていたからだ。米国が中距離ミサイルを沖縄など日本に配備する計画があるというのだ。米国は沖縄配備を当然視しているという。

 配備されれば沖縄は復帰前、大量の核兵器が置かれ冷戦の最前線だった時代に逆戻りする。暗澹(あんたん)たる気持ちに陥った。モスクワで取材したジャーナリストらや、ゴルバチョフ氏も日本への配備計画情報を既に把握していた。

インタビューに答えるミハイル・ゴルバチョフ氏=2019年9月19日、モスクワ

ミサイルは攻撃型

 調べると、米国のシンクタンクやメディアでは既に周知の事実になっていた。関係者の間でも情報は流布していることが分かった。大きく報じることの責任感に駆られ、3日付の配備計画報道につながった。

 報道後、米国防総省は本紙取材に「現在、地上発射型の中距離ミサイルや核ミサイルの在庫がない。そのため、沖縄に配備する計画はない」と回答した。開発中なので、ある意味、当然である。しかし関係者が言うように、開発が終われば当然、倉庫にしまうのではなく配備する運びになる。それが早くて2年以内に迫っている。それを「計画」と報じた。

 新型の中距離ミサイルには巡航ミサイルと弾道ミサイルの2種類がある。米国は、比較的開発が早い巡航ミサイルを「核弾頭抜きで配備したい」と今後、日本などの同盟国に公式に説得する公算が大きい。いずれにせよ、嘉手納基地に配備されたPAC3など迎撃型と異なり攻撃型が配備されれば、「敵国」にとっては核弾頭の有無は不明のため、核など破壊力の大きい兵器で標的にされる。基地負担は飛躍的に増す。

 ゴルバチョフ氏が提言した「検証」はその意味でも絶対に必要だと感じた。

沖縄の存在感

 他の取材先からも沖縄への有意義なメッセージが聞かれた。取材後にユーラシア経済同盟の大臣に就任したセルゲイ・グラジエフ氏やジャーナリストのセルゲイ・ストローカン氏らは交流の場として沖縄が存在感を発揮することを提唱した。観光客らで賑わうクレムリンの「赤の広場」を訪れたが、そこでエイサーなど沖縄の芸能を披露し観光をPRしたり沖縄の物産を販売したりしたら反響は大きいだろうと感じた。広場はロシアが誇る歴史的テーマパークとも言える。

 チャイコフスキー財団が沖縄との文化交流に強い関心を示していたことも印象に残った。県は既にロシアとの経済・地域交流に向けて協議を進めている。進展を期待したい。

 今回の取材は、服部年伸ゴルバチョフ財団日本事務所代表にコーディネートしていただき、大変お世話になった。心から感謝したい。

 ゴルバチョフ氏は、沖縄の人々の平和のための闘い、軍事基地に対抗していることに尊敬の念を表した。軍拡競争の中で軍事の要石として強化されるのか、平和や交流の拠点に転換できるのか。沖縄は岐路に立たされている。日本と同様に配備の可能性が高い欧州の国々や日本本土との連帯など、新冷戦と対峙する戦略が早急に求められている。ゴルバチョフ氏の言葉は道しるべだ。