1992年に国営公園として復元された首里城の主要施設。2000年に世界文化遺産に登録されたが、地下の遺構である国史跡「首里城跡」以外は復元施設で、重要文化財には該当しない。木造でありながら文化財保護法に基づく防火対策などは義務付けられていない。さらに、商業施設や宿泊施設にも当たらず、消防法によるスプリンクラー設置などの防火対策も対象外だった。
識者は「今回の火災を契機に施設利用者や周辺住民の安全を考え、議論する必要がある」と指摘する。
文化庁は今年9月、フランスの世界遺産ノートルダム寺院(大聖堂)の大火災を受けて、重要文化財などに指定された建物の防火対策指針をまとめた。文化庁は指針で、必要な消火設備の設置や、老朽化した設備の交換などを施設所有者らに求めたが、首里城は文化財保護法や消防法などの規制対象外。通知は法的拘束力は伴わなかった。
歴史的・文化的な価値を有し、観光地としても人気を誇る施設ながら、防火対策の規制対象からは外れていた格好だ。
夜間の出火想定外
火災原因の特定は時間を要している。首里城指定管理者の沖縄美ら島財団によると、出火場所とされる正殿は火災発生時、電源なども落とされ「火元はなかった」(花城良廣・沖縄美ら島財団理事長)。訪問客などがいない夜間に出火するという設定の消防訓練はこれまで実施しておらず、今回の火災は“想定外”だった。
首里城正殿には延焼防止のために屋根軒下などから水を流す「ドレンチャー」設備が復元当初から整備され、火災発生時も稼働していた。また、消火設備として放水銃も整備されていた。だが、初動対応に当たった警備員は火災の熱で放水銃の場所に近寄れないなど、既存設備では延焼を防げなかった。
1日の記者会見で防火体制について問われた花城理事長は「最大限、防火体制、マニュアルに準じてやってきた。それを踏まえて見直す必要がある。今回の事故を基に検証したい」と述べた。
相反する側面
課題も残る。最新の防火設備などを整備することで、施設訪問者らの安全確保や利便性向上につなげることはできる。だが、現代的な設備を施設内に備えることは、施設の歴史的価値や復元の忠実性などを損なう可能性がある。
建てられた当初の姿や文化財としての価値を保つことは、施設の防災性や訪問者らの安全確保などと相反する側面もある。
県文化財保護審議会委員の豊見山和行琉大教授は「火災原因の特定が一番重要」とした上で「歴史的意義や希少性を保ちつつ、安全性や利便性をどう確保するかは議論が必要だ。今回の火災を教訓にした施設のあり方を考える必要がある」と指摘した。
(当間詩朗)