心の奥底の悲しみ、欲望 映画「第三夫人と髪飾り」


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 川辺で長い髪を洗い、手足を清水に浸して涼む美女たち。美しい水で、何度も何度も、衣服を着たままお互いの身体を流し合い戯れる。19世紀、北ベトナムの小さな村は、山々に囲まれ、水が豊かで、たくさんの命が息づいている。

 川辺の美女たちは、村の有力者の夫人と、その娘たち。主人公のメイも有力者の夫人の1人。14歳で、第3夫人として嫁いできた。夫人たちに与えられた使命は、男子を産むこと。運命を受け入れ、順調に子を宿したメイ。第1、第2夫人との関係がこじれることもなく、助け合う日々に、人生はこのまま流されるままに流れるように思えた。

 力ある男が、美しき妻を何人もめとることが当たり前だった時代。自分を主張することも、運命にあらがうことも、反旗を翻すこともしない女性たちが、心の奥底に隠し持った悲しみや欲望を撮ったのがこの作品。遠い19世紀の物語のはずなのに、彼女たちの抱える恐怖や不安や悲しみは、どこか身に覚えがある。この映画に、女性の心が写っているからなんだと思う。アッシュ・メイフェア監督。

(桜坂劇場・下地久美子)