救い上げられる温かさ 映画「閉鎖病棟―それぞれの朝―」


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(C)2019「閉鎖病棟」製作委員会

 長野県のとある精神科病院。心を病んだ人たちが、家族や世間から遠ざけられて暮らしている。死刑執行が失敗し生きながらえた秀丸。幻聴に悩まされるチュウさん。DVが原因で母親に連れてこられた由紀。

 魂が導かれるように寄り添う3人に、ある日残酷な事件が起きる。かつて日常の中で怒りに任せて罪を犯した秀丸が、閉じ込められた閉鎖病棟の中では清らかな魂を救うために、罪を犯す。後者を責められるのかと映画は問う。

 久米宏さんがある脳科学者の話だと断って、映画にコメントを寄せている。

“脳の根本には大きな感情がありその表面を薄い知性の膜が覆っているらしい。人間の価値は感情部分の質にあるという”と。

 自分は知性の膜を飾ることに懸命になるあまり、根幹の感情の質を落としてしまっているのではと戦慄(せんりつ)する。映画に流れる苦しみやつらさは大きすぎて共有することは困難でも、行き場のない孤独や誰かに救い上げられる温かさが心のひだに染みて泣きじゃくる。監督は平山秀幸。

(スターシアターズ・榮慶子)