紛れもない“家族”の話だが、ほんわかとした家族シーンなど期待してはいけない。冒頭、3人の子供たちに執拗(しつよう)な暴力をふるう父親を母親が車でひき殺すシーンから始まる。
母親は子供たちに、「これからあなたたちは自由だ、何にでもなれる!」と言い残し15年後の再会を約束して自首していく。そして母親は、出所後も居場所を教えることなく、きっかり15年後帰ってくる。
何にでもなれると希望を託された子供たちだが、殺人犯の子として生きながら、世間で羽ばたくには、のしかかるものが重すぎた。怒りと恨みと思慕とのはざまで葛藤し、立ちすくむ子供たちを目の当たりにすれば、殺す以外の道はなったのかと倫理感が首をもたげる。しかし、なじられよう疎まれようと、「私は間違っていない」と覚悟する母親に圧倒される。
これを愛とは呼ばないというのであればそれでもいい。だがどんなに否定しても、この母親のぬくもりに包まれていたいと願う事は罪ではない。監督は白石和彌。
(スターシアターズ・榮慶子)