転落人生への絶望忘れ軽やかに 映画「ラスト・ムービースター」 14日から桜坂劇場


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 最近とにかく忘れっぽい。例えば、男に捨てられたとして、すごく悲しかったとします。10年前なら、忘れるには新しい男が必要でした。でも今なら、1週間ほどもらえれば忘れられる気がします。「捨てられた」事は記憶できても「悲しい」という感情を記憶し続けられないのです。

 「時間が解決する」ってこういうことか! そう思いはじめた直後、スクリーンに登場したのが往年の大スター、バート・レイノルズ。筋骨隆々の肉体美を誇ったあの頃の面影は皆無。ガリガリのシワシワのヨチヨチ歩きで登場。

 彼が演じるのは、過去の栄光だけを胸に、ひっそりと生きる往年の大スターの人生。まさに本人の人生を体現した全部自虐の物語を、とても楽しそうに演じている。落ちぶれている自分を自覚し、自らの演技で徹底的に観客にさらす。スターからの転落人生に絶望したこともあるはず。でも彼は極めて軽やか。「絶望」という感情を、忘れたのかもしれない。

 人生全てをエンターテインメントに昇華させ、この世を去るなんて最高! バート、私はあなたを忘れない!
 (桜坂劇場・下地久美子)