辛(つら)い。書きたいことが三つもある。悩んだ末、恐縮ながら、三題とも取り上げてしまいます。その一が英国の総選挙結果。その二が金融政策の「緑化」問題。その三がポール・ヴォルカー氏の死。
英国の総選挙で、与党保守党が大勝した。ジョンソン首相が掲げた「ブレクジット(EU離脱)をやったるぜ」の単純明快スローガンが、この問題にウンザリし切っていた庶民票を引き寄せた。節操なく、慎みなく、怯(ひる)みなき浅薄な選挙戦術が功を奏した。何とも、この人らしい。
この選挙結果が、英国の国家解体をもたらすかもしれない。スコットランド地方と北アイルランド地方では、EU残留派が多数を占めている。ブレクジットは、もっぱらイングランド地方の意向だ。だから、英国がEUから離脱すれば、スコットランドと北アイルランドが英国から離脱するかもしれない。イングランドが長州なら、スコットランドと北アイルランドは英国の会津だ。イングランド人のジョンソン首相の出方いかんでは、けんか別れがあり得る。
中央銀行の「緑化」に行こう。金融政策の遂行に際して、環境保全をどこまで意識するかという問題である。温暖化防止に熱心な国々の国債を優先的に買い入れる。このような方針を中央銀行たちが打ち出すべきか。議論百出、賛否両論だ。欧州中銀がご執心。イングランド銀行も前向き。アメリカのFRB(連邦準備理事会)とスイス中銀は反対。日銀は沈黙。まともな金融政策をやっていないから、そもそも、議論に加わる資格なし。
それにしても、環境問題が金融政策との脈絡で話題になる時代だというのに、日本ではIR(統合型リゾート)というギンギンギラギラ大作戦が「成長戦略」のテーマになっている。ジョンソン首相並みの節操の無さだ。
節操と知性のかたまり。それがポール・ヴォルカー氏だった。FRBの第12代議長。戦後史上、間違いなく最も偉大な中央銀行家だった。金融政策の緑化には懐疑的かもしれない。他方、英国首相と日銀と日本政府には、躊躇(ちゅうちょ)なく、大鉄槌(てっつい)を下すだろう。巨漢だったから、痛いよ。
(浜矩子、同志社大大学院教授)