菅官房長官の首里城視察 ちらつく「辺野古」


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首里城を視察中、会話を交わす菅義偉官房長官(右)と玉城デニー知事=21日午前、那覇市

 菅義偉官房長官は2020年度の政府予算案を決定した翌21日に沖縄入りし、国主導による早期の首里城再建へ陣頭指揮を執る姿勢をアピールしてみせた。県民世論の風当たりが強い基地問題では、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する県を飛び越え、市町村に直接働き掛ける手法で名護、宜野湾両市長らとの面談を精力的にこなした。首里城復元関係閣僚会議の議長と沖縄基地負担軽減担当相という二つの顔を使いこなし、沖縄政策への一層の関与を深めている。

 菅氏は那覇空港に到着すると首里城に直行し、「復元へ全力を尽くす」と強調した。記者団との質疑応答は守礼門の前に設定され、この日からの城壁ライトアップ再開や正殿地下遺構の公開方針など、来県の“手土産”を発表。再建を望む県民や観光客減に悩む地域に寄り添う政府の姿勢を演出した。

■知事面談予定なく

 首里城で菅氏は玉城デニー知事から火災の状況や復元の課題について説明を受けた。しかし今回の来県で、菅氏が知事と顔を合わせる予定は直前までなかった。当初は自民党県連の役員が現場説明する手はずだった。

 関係者によると「予算や税制の件で直接、礼を伝えたい」という理由から、県側が20日夕に急きょ同行を申し入れた。面談日程を差し込んだ狙いについて、県政与党幹部は「丁寧に対応している姿勢を見せるため」と説明する。礼を伝えるとはいえ、20年度の沖縄関係予算は3010億円に据え置かれ、自由度の高い一括交付金が減らされるなど県の増額要請は袖にされた。

 また、首里城火災の翌日にも知事は即座に上京して菅氏と面談したが、その行動が県内で不興を買った経緯がある。与党内からも「政府にすり寄った」と批判があり、県は「要請ではなく火災の報告」(謝花喜一郎副知事)と軌道修正する一幕があった。

 首里城焼失以降、主導権を政府に握られている感が否めず、政府方針の辺野古新基地建設に反対する県の姿勢が変遷することへの懸念の声がある。与党幹部は「当然、政府としては狙ってくるだろう。だが辺野古でぶれないからこそ、首里城で連携しようという話を堂々とできる」と知事の立場を擁護した。

■ツーショット

 知事との会談の予定はなかったが、辺野古移設を容認する松川正則宜野湾市長や渡具知武豊名護市長、辺野古区長らとは懇談の場が設けられていた。

 宜野湾市議会が可決した辺野古移設促進意見書を受け取った菅氏は、報道陣の退席後、上地安之議長に「『苦渋の決断』で踏み込んでくれたことに感謝する」とねぎらったという。

 菅氏の来県は3月以来、約9カ月ぶり。前回は公務の合間を縫って、衆院沖縄3区補欠選挙に出馬した島尻安伊子氏を激励した。今回も来年6月の県議選に向け、自民党から出馬する候補者と個別の写真撮影に臨むなど政務日程が組まれた。

 自民党県連の島袋大幹事長は記者団に「来県の一番の目的は首里城の視察だ」と語り、県議選応援はついでという認識を強調。だが、県議選で県政与党が3議席を落とせば与野党構成が逆転し、辺野古新基地建設阻止に取り組む上で玉城県政の「足かせ」となることは間違いない。

 懇談では中川京貴県連会長が「『自公維』で過半数確保を目指す」と県議選の目標設定を報告すると、菅氏は「精いっぱいやってくれ。県連として足腰を強くしてほしい」とハッパを掛けたという。(明真南斗、吉田健一、塚崎昇平)