「自分に合う環境を選ぶ力を」 発達障がい支援で大切なこと 本田秀夫さん講演


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「発想の転換で本人たちの文化・尊厳を認めて」と語る信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授の本田秀夫氏=22日、西原町の町民交流センター

 NHKハートフォーラム「発達障害~支援のスクラムで、生きづらさを強みに」が22日、西原町の町民交流センターで開かれた。県発達障害者支援センターなどが主催した。発達障がい研究の第一人者で信州大医学部教授の本田秀夫さんは基調講演で「自分を知り、自分に合った道を選ぶ力を付けられれば、障がいとみる必要はなくなる」などと話した。後半には教育、保健、福祉の県担当者が県の支援策を報告した。

◇周囲に合わせ我慢

 発達障がいは生活に支障を来す行動特性を指す。本田さんは、保育園に行くのを嫌がるようになった5歳の女児の例を挙げた。保育士は「問題ない」と言うが、本人に聞くと、聴覚過敏で他の子どもがおしゃべりしている声がつらく、この年齢の定番である「ごっこ遊び」も好きではないのに「頑張って周りに合わせていた」。頑張り続けた末、学校などに行けなくなる例はよくあるという。

 「周囲から見た症状の軽重と本人の困り具合は必ずしも一致しない」といい、療育を受けて問題が減った場合も、本人が我慢を覚えただけということもあるという。

 発達障がいには、知的障がいのほか、不注意、衝動的、落ち着きがないなど「そそっかしい」状態であるADHD、臨機応変が苦手で自分のペースを守りたがる自閉スペクトラム症候群(ASD)がある。程度の差こそあれ、誰もがその要素を持つと同時に、生活上の困難度が高い人は複数の特徴を持つことが多いと説明。その場合、ASDのこだわりがあるのに、ADHDで集中できず、物事を完結できずに自己肯定感が上がらない―といった難しさがあると指摘した。

 またASDのある人が人を避けるようになるのは特徴ではなく「つらい体験を重ねた結果の二次障害だ」とした。幼少時にASDと診断された男性が成長して専門的な技術職として出世頭になり「オタク」な趣味も楽しんでいる事例を紹介し、「大切なのは、自分の特徴を分かって、それに合った環境を選び取るよう育てることだ」と力を込めた。

◇「愛情」以外にこつ

 「愛情とは別の要素が要る」として「日本流の子育ては言って聞かせることを重視するが、ASDは耳より目からの情報が入りやすく、ADHDは長い言葉は気が散って頭に入らない。親は言葉を尽くし、一生懸命愛情をかけているつもりでも、本人には情報が届かずネグレクト状態。大事な情報は絵や写真、文字にして伝えて」と助言した。

 定形発達の人が大多数を占め、協調性を重んじる日本社会で、発達障がいがある人たちは「我慢し、過剰適応させられている」と二次障害を懸念。問題を減らすために「大人の言うことをきかせようとしては絶対にいけない」と強調した。

NHKハートフォーラム「発達障害~支援のスクラムで生きづらさを強みに」に登壇する本田秀夫氏ほか県の担当者ら

◇発想の転換を

 発達障がいがある子どもを育てる際「好きなことを生かして」「無理に苦手なことをさせなくていい」と言われる。本田さんは「鉄則だが『できなければ人間として失格』と言われるようなことができなければ、周囲は腹が立つ」と現実を指摘し、腹を立てないこつとして、発想の転換を促した。

 こつこつ努力するのが苦手な子が本番で成功した時は「ちゃっかりしてずるい」ではなく「本番だけでもできた」、夏休みの宿題をぎりぎりまでやらない子には「どこまでなら間に合うか、間に合わない時はどうすれば回りに手伝ってもらえるか、その方法を身に付けたら生き残れる」。いわゆる「常識」とは異なる捉え方が必要だとした。

 何より必要なこととして「人に相談できる力を育てること」を挙げた。自分に何ができて何ができないかを知る「自律スキル」、できないことを他者に相談する「ソーシャルスキル」の両方を「子どもの頃から教えることが絶対に必要」と強調した。

 その教え方として、大人が提案して子どもが合意する「合意形成の習慣」を挙げた。幼児期から「子どもは大人に従うべき」と命令せず、子ども自身がやるかやらないかを判断し、「反抗」ではなく「おかしいと思う」と言える関係をつくることで子どもの情緒は安定し、信頼関係が形成されるとした。

 日常生活でも、身の回りの片付けができないことは「実害がなければ見逃す」、時間を守れないのは「諦めて内容の質を重視」、衝動的になるのは「きっかけになるものを排除」などと“発想の転換”方法を助言した。

◇本人の文化尊重を

 ASDの子どもはそうでない子より登校拒否行動が出やすいとした上で「単に『一緒にする』ではなく、みんなが居心地よく参加できる場にする必要がある」と指摘した。イスラム教徒が特定の動物の肉を食べない文化を尊重するのと同様、「みんなと同じ」を強制せず「発達障がいの人たち特有の感じ方や楽しみ方を受け入れて」と訴えた。

 具体的な方法として、授業は(知的障がいとの境とされる)IQ70でも理解できる難易度、自閉症でも分かる視覚的な教材などを標準とするユニバーサルデザインにした上で、個別のハンディを補う合理的配慮、同じ文化のある仲間が集まれるコミュニティーづくりを提案。「“みんな一緒”も大事だが、自分たちの文化が尊重される枠組みが必要」と本人の意思や希望を原点とすることを強調した。