感染防止が最優先だが…悩む観光業界 新型肺炎で見えた沖縄観光の脆弱性


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沖縄ツーリズム産業団体協議会であいさつをする沖縄観光コンベンションビューローの下地芳郎会長=28日、豊見城市の沖縄空手会館

 新型コロナウイルスの感染拡大は日本人にも初めての感染者を出し、観光地沖縄でも緊張感が高まる。観光業界として沖縄での感染防止を最優先に取り組まなければならない一方で、28日に観光関係者が集まった「沖縄ツーリズム産業団体協議会」では、中国からの宿泊キャンセルが相次ぐ状況を受けて沖縄観光の先行きに懸念が示された。防疫対策と観光振興というジレンマを抱え、行政も業界も打開策は見いだせていない。

 同協議会は昨年の首里城火災の翌日にも緊急で招集された。新型肺炎の感染拡大を受けた28日の開催も急な呼び掛けだったが27の企業・団体が集まり、観光事業者の危機感が現れた。

 協議会会長を務める下地芳郎沖縄観光コンベンションビューロー会長は「県内で新型肺炎を発生させないために情報共有が何より重要だ。コミュニケーションが不足すると不安も高まる」と強調した。

 だが、ウイルス防除の対策に加え、観光業界の書き入れ時である春節に重なって中国からの団体旅行キャンセルが直撃し、具体的な対策については手探り状態が続いている。県ホテル協会では、春節期間で会員64社から3800人のキャンセルが出る見立てだ。

 感染予防については、ウイルスには潜伏期間があることから、観光関係者には「感染者の見極めができないため対応が難しい」との声が多い。那覇市内のホテル関係者は「ホテルでは現状、マスク着用などの対策しかできない」と頭を抱える。

 28日の緊急会議では、新型肺炎の感染予防対策のほか、万が一発生した場合に業界全体で統一した対応ができるマニュアルなどの策定を行政に求める意見が上がった。

 中城港湾クルーズ促進連絡協議会の仲宗根亨・広域連携課長は、2月18日に中城湾港に初寄港する中国からのクルーズ船を歓迎するセレモニーの予定を説明し、「観光振興の視点では歓迎すべきことだが、感染防止のために自粛すべきとの意見もある」と悩みを明かした。

 2018年度に沖縄を訪れた中国客は約69万人で、外国客約300万人のうち2割強を占める。中国客は観光消費額も高く、県の18年度の調査では空路客の1人当たり消費額は12万8280円で全国籍平均の9万119円を大きく上回る。

 昨年来の日韓関係の悪化を受けた観光客の落ち込みで韓国との航空路線が縮小し、香港との往来も現地のデモなど情勢の影響で弱さが見受けられる。これらに加えて中国客の減少は、観光業界に大きな痛手となる。

 国際情勢や災害などに左右されやすいインバウンド市場の弱さから、協議会ではリスク分散のために「新たな市場の開拓」を求める意見も出た。

 JTB沖縄の杉本健次社長は現状について「沖縄観光の脆弱(ぜいじゃく)性が出てきた」と指摘し、「インバウンド市場が東アジア4カ国に偏るとリスクが大きい。他の市場へのプロモーションが必要だ。(新型肺炎の感染が)終息したら再び中国市場へのプロモーションを行う準備も必要だ」と話した。 (中村優希)