「アララガマ魂」で挑む ライバル超えへあと10キロ 重量挙げ女子 佐渡山彩奈〈憧憬の舞台へ〉⑥


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 東京五輪の重量挙げで、日本の出場枠は現段階で男女各3枠(最大4枠)。出場を目指す選手らが切磋琢磨(せっさたくま)する中で、佐渡山彩奈(25)=宮古高―平成国際大出、いちご=が挑もうとする女子55キロ級には、五輪2大会連続出場した八木かなえ(ALSOK)がいる。超えなければならない壁は大きく、記録では残り2カ月弱でトータル約10キロ伸ばさないといけない。それでも「(越える)自信はなくはない。かなえさんの記録を少しでも超えられる可能性があるなら、そこに懸けたい」と限界突破を目指す。

佐渡山彩奈

■負けん気

 女子代表メンバーの中では最年少で、先輩選手のプレートを率先して準備するなど周囲に気を配る。温厚で愛嬌(あいきょう)たっぷりの笑顔を見せるが、「アララガマ魂」を宿している。一番記憶に残るのは大学4年時、主将として臨んだ全国大学対抗選手権大会。団体優勝を優先し、主戦場の53キロ級を後輩に譲り、2キロ増量して55キロ級に出場した。

 「みんなを信じてやろう。絶対優勝してやる」と6本すべて成功させた。スナッチ81キロ、ジャーク103キロでトータル184キロは自己ベストを上回り、堂々と頂点に立った。

 「プレッシャーを楽しめたのかな」と振り返る。大会前は優勝を狙える記録ではなかったが、勝負強さを発揮した。同年、日本ウエイトリフティング協会の三宅義行会長から「いちごで東京を目指してみないか」と声が掛かり、「めったにない東京五輪。年齢も良く、チャンス」と所属先を決めたという。

■出合い

 重量挙げと出合ったのは宮古高2年。糸満や豊見城など強豪校を指導してきた渡慶次晃教諭が宮古高に赴任し、佐渡山の担任を務めた。競技普及のため重量挙げ部を立ち上げた渡慶次教諭は、アルバイト漬けだった佐渡山にも声を掛けた。

 中学時代までバスケをやっていたが「ボールが勝手に手から飛んでいっちゃう」ほどの運動神経。高校では部活をしないと決めていたが、体を動かすのは好きで入部を決めた。

 創部直後は器材不足で、2メートルの木の棒をシャフトに見立てての練習から始まる。約5カ月、筋トレとフォーム固めに専念した。

 器材が届いたのは新人大会の1週間前だが、出場した48キロ級はスナッチもジャークもほぼ成功させた。出場が1人のため認定優勝だが、標準記録を突破しての九州大会出場に「重量挙げは記録が全てでやりがいがある。(気持ちに)火が付いてしまった」とリフターの道を歩み出した。高校時代の目立った成績は2012年の全国高校選抜大会4位入賞だけだが、着実に力を伸ばしていく。大学では16年の全日本学生選抜大会で優勝し、世界学生選手権で3位入賞するなど、活躍の場は国外にまで広がった。

■増量の苦しみ

ライバルの八木かなえを超え、東京五輪内定を目指す佐渡山彩奈=国頭村の「くにがみクラブハウス」(喜瀬守昭撮影)

 八木との差を感じているが、2018年の福井国体では53キロ級で優勝をつかみ取った。八木の調整不良もあったが、スナッチ3本目で81キロを挙げた瞬間は白い歯をのぞかせ「まだいけたかも」と、自分の中に伸びしろを感じていた。

 ただ、五輪代表を目指すためには、苦手とする体重増加という課題がある。佐渡山は小食で53キロ級でも体重は51キロ。2キロ増の新階級55キロはさらに「苦しい」増量が続く。

 高校時代の恩師、渡慶次さんによると「体重1キロでトータルは10キロほど変化することもある」という。トレーニングと合わせた食事も重要だが、差し入れを気遣って食べても、吐いてしまうことも多かったという。

 昨年11月は沖縄に帰って合宿を行った。練習場所を変えるなどの気分転換もあり、「食べたい時に食べようと気持ちを切り替えられるようになった」という。体重増加も佐渡山にとって自然なペースになっている。

 現在の体重は53・5キロ。挙げる重量も10キロほど増えるなど、トレーニングの調子は上向きだ。超えるべき八木との差である約10キロは簡単に覆せるものではないが、「やるしかない。良い報告をみんなにしたい」と、一つ一つの壁を越えていくつもりだ。 (敬称略)

(喜屋武研伍)