教えて身につくものでない優しさ育つ 知的障がいの仲村さんの受け入れに否定的だった元教育長が見たものとは… 〈高校でも一緒に・定員内不合格を考える〉③


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「伊織さんがいると周囲の空気が変わる」と共に学ぶ意義を語る元北中城村教育長の川上辰雄さん=1月21日、北中城村

 昨年12月26日、沖縄県議会。知的障がいがある仲村伊織さん(17)の高校進学を巡る県教育委員会と県議や市町村議員の意見交換会に、北中城村元教育長・川上辰雄さん(70)がいた。

 11年前、仲村さんが村立小学校への入学を希望した時、川上さんは否定的な立場で家族と向き合っていた。受け入れるためには授業や教材の準備や給食やトイレの介助などの課題をクリアしなければならない。話し合いを重ねても、結論は「特別な教育課程は準備できない」であった。その姿勢は「今の県教委と同じだった」と振り返る。

 村教委は最終的に仲村さんを村立小学校に受け入れた。家族と関わりがある福祉課や住民課が「教委だけの問題ではない」と考え、それぞれの担当でできることを議論した。次第に家族や学校を支える空気が村全体に醸成された。

 「予算や人員配置を相談できる安心感があった」と川上さん。周囲に背中を押され「全面的にOKではなかった」が学校に協力を依頼し、仲村さんの受け入れ準備を進めた。

 この仕事を最後に川上さんは定年退職した。その後、学校行事や広報で目に触れる伊織さんは友達に囲まれて笑顔を見せ、心身ともにめざましく成長していた。中学校の運動会では友達に支えられて徒競走のゴールテープを切っていた。教えて身に付くものではない優しさが周囲の児童生徒にも育っていた。「自分の考えは狭かったのではないか」と川上さんは感じるようになった。

 仲村さんが県立高校を目指していることを新聞記事で知った。村教育長に就く前、高校の管理職をしていた経験から、仲村さんの進学は「難しい」と見ていた。その記事には障がい者を受け入れる大阪府立高校の記述があり、気になった。所用で関西に出向いた際、思い切って大阪府教委を訪ね、障がい者受け入れの担当者と1時間近く面談した。その仕組みには「興奮した」という。

 伊織さんの9年間を見つめて確信したのは「教育の場で認め合い、共に学び育てば、いろんな人が地域で一緒に生きるすべを学べる」ということだ。

 県外には高校での具体的な方法もある。「人員配置も財政も、北中城村でも県外でも成功している。きっとうまくいく」。同じ教育行政を担った者として、県教委の英断へエールを送っている。

(黒田華)
 


 県立高校への進学を希望する重度知的障がいがある仲村伊織さん(17)と家族の活動は、ほとんどの中学生が高校進学し、社会では高校での学びが求められているにもかかわらず、成績が足りなければ空席があっても入学できない定員内不合格の問題をあぶり出した。「誰ひとり取り残さない」を理念に「質の高い教育をみんなに」を掲げるSDGs(持続可能な開発目標)にもつながる、共生社会に向けた高校のあり方を考える。