北部基幹病院、合意形成まで1年を要したのはなぜか?今後懸念されることは?


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 【北部】名護市の県立北部病院と北部地区医師会病院を統合する北部基幹病院設置を巡って、北部12市町村が4日、県の合意書案を受け入れる方針を決めた。県が合意書案を示したのは2019年1月で、合意形成まで1年以上を要した。遅々として進まない議論に医療関係者からは「住民の医療を守る観点が欠如している」との指摘も上がる。一方、各市町村が抱える医療事情の違いや経営方式など調整の難しさを抱えていたのも事実だ。

県立北部病院=8日、名護市
北部地区医師会病院=8日、名護市

■現場にいらだち

 「各首長も賛成しているのに、なぜ基幹病院はできないのか」。ようやくの県案了承に、北部地区のある医療関係者はいらだちを見せた。現在の県立北部病院の病床は257、北部地区医師会病院の病床は236。統合後は450床を基本とする計画だ。大規模化で医療人材や経営基盤の安定も見込まれ、医療現場の期待は大きい。

 北部での基幹病院設置の声は根強く、17年3月には住民総決起大会が開かれた。県は同年12月に病院設置方針を表明。19年1月に基本合意書案を示した。県と市町村は財政負担などの協議を続け、県案了承まで1年以上費やした。別の医師は「行政側には医療に関する知識がなく、お金の話に終始したのではないか」といぶかる。

■財政負担増を懸念

 県と北部市町村などは当初、18年度中の合意書締結の方針だったが、調整は難航。背景には各市町村の医療環境の違いがあった。

 合意書案では、県立北部病院と各市町村の付属診療所を新病院の付属に移行すると定められていた。しかし伊江村から「現在の村立診療所の体制が縮小されると、村民の不利益になる」などの意見が上がり、県は診療体制維持への配慮などを盛り込んだ修正案を提示した。

 市町村側には、経験のない病院経営や新たな財政負担の不安もあった。ある首長は「市町村の財政負担がないようにするための担保について、最終的に県が責任を持つという結論が出たので合意した」と明かす。

■県立外し 慎重論も

 12市町村の合意でボールは県に投げ返された。県議会与党内には基幹病院が県立でなくなることへの慎重論もあり、調整は難航も予想される。ある与党県議は「『医師確保』の担保が取れない限り、県立を外すべきではない」と主張する。

 診療科など具体的な構想は、合意後に設置する整備協議会での議論に移る。病理専門医の大城真理子名桜大国際学群上級准教授は「救急だけでなくトータルで人を診て、地域に帰する21世紀型の病院が必要だ」と強調。その上で「拙速に議論を進めるべきではない。住民や行政が目指すべき病院像を明確に設定する必要がある」と指摘している。

(塚崎昇平)