「人生をすべて否定される経験…」 支援なくつらい浪人生活 4回挑戦も不合格 〈高校でも一緒に・定員内不合格を考える〉⑤


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千葉県立東葛飾高校定時制への合格を喜ぶ石崎智大さん(中央)。全日制に通う中学時代の同級生(左)、友人の小林夏美さんも祝福した=2018年(母親の温子さん提供)

 文部科学省によると、高校入試で定員内不合格が出る制度を採用しているのは全国で32道府県ある。千葉県も沖縄県と同様に定員内不合格が出る制度だが、千葉では重度知的障がいのある生徒も入学している。沖縄で2度不合格となった仲村伊織さん(17)と同程度の障がいがある石崎智大さん(18)=千葉県松戸市=は、1浪して千葉県立東葛飾高定時制に合格した。充実した高校生活を送るが、父親の浩之さん(52)、母親の温子さん(49)は「浪人中は本当につらかった」と振り返る。

 智大さんは地域の小中学校で過ごした。背が低く、整列するといつも一番前。同級生からは「とも君かわいい」と言われ、親しまれた。中学校の修学旅行も親の介助なしで行き、同級生に助けられながらも楽しい思い出を作った。

 千葉県は前期、後期、2次募集、定時制のみの追加募集の計4回の受験機会がある。智大さんは初受験の2017年、そのうち3回で定員内不合格となった。同級生と一緒に高校へ行けないことを理解し、泣いていたという。

 普通高校を目指して浪人を決意したものの、思わぬ壁が表れた。フリースクールにも入学を断られ、放課後デイサービスも学生でないという理由で受けられなかった。浪人する障がい者がいることを想定していないのか、学生でない15~18歳の福祉支援は欠落していた。温子さんは「智大の今までの人生と人格の全てを否定、拒否される経験だった」と打ち明ける。

 支援の欠落に苦しむ中、智大さんは志望校が開く説明会のほか、自主的な見学として何度も学校へ足を運んだ。高校の雰囲気に慣れると同時に、入学の意思を示し続けた。

 迎えた2度目の受験。1年前の定員内不合格の連続がうそのように、前期で合格を果たした。東葛飾高校の校長からは「1年待たせて申し訳ない」と頭を下げられた。

 合格発表の時、全日制に通う中学時代の友人とばったり出会った。温子さんは「校長先生のおかげで入学できた」とうれしさを伝えたが、返ってきた言葉は「何で校長先生なの? 頑張ったのはとも君じゃん」。同世代と一緒に過ごせる喜びを実感した。

 高校では臨時、非常勤の2人の教員が担任と相談しながら智大さんとの接し方を工夫している。始めは隣や教室の後ろなどに付いていたが、現在は教室の外で見守る。温子さんは「浪人中はつらかった。今は学校にずっといられるという安心があるのか、智大はすごく落ち着いている」と語った。

 (稲福政俊)
 


 県立高校への進学を希望する重度知的障がいがある仲村伊織さん(17)と家族の活動は、ほとんどの中学生が高校進学し、社会では高校での学びが求められているにもかかわらず、成績が足りなければ空席があっても入学できない定員内不合格の問題をあぶり出した。「誰ひとり取り残さない」を理念に「質の高い教育をみんなに」を掲げるSDGs(持続可能な開発目標)にもつながる、共生社会に向けた高校のあり方を考える。