日本復帰の内実を問う作品 東京上演の舞台「沖縄世」


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 【東京】日本復帰直前の沖縄を舞台に、翻弄(ほんろう)され続ける沖縄を描いたトム・プロジェクトプロデュースの舞台「沖縄世(うちなーゆ)」(作・古川健、演出・小笠原響)が2日まで、東京芸術劇場シアターウエストで上演された。近年、映画や舞台でよく取り上げられる「米軍が恐れた男」と呼ばれる瀬長亀次郎さんをモデルにした島袋亀太郎(下條アトム)と、沖縄密貿易で有名な照屋敏子さんがモデルの島袋の妻俊子(島田歌穂)のやりとりを通して、米国統治から日本国への復帰の内実を観客に問い掛けた。

復帰直前を舞台に沖縄の行方にそれぞれの思いを語る舞台「沖縄世」で、島袋亀太郎役の下條アトム(左から3人目)と妻俊子役の島田歌穂(同4人目)=東京芸術劇場シアターウエスト

 復帰運動を先頭になって引っ張ってきた島袋亀太郎、通称「カメさん」がリーダーを引退する決意を固めたところから舞台は始まる。ともに復帰闘争を闘ってきた仲間たちは引き留めるが、カメさんの決意は固い。米軍への抵抗や復帰運動で訴えながらも、結局、復帰で基地のない「平和な沖縄」を実現できていない敗北感から、その後、改めて立ち上がっていくカメさんの姿を描いた。

 「不屈」の言葉通り強いイメージが定着している亀次郎さんだが、本公演では他の映画や舞台などの「カメさん」像とは一線を画した気弱なカメさん役を、下條は独特のせりふ回しで演じた。カメさんを支える妻俊子役の島田は友人春子役のきゃんひとみと共に、絶妙な節回しの沖縄民謡とうちなーぐちで沖縄の空気を作り上げた。

 1月30日の公演後には出演者と演出家、脚本家によるトークショーも開かれた。

 下條は「沖縄の人々の気持ちを全て語るのはおこがましくてできない。悲しい、つらいと言える立場ではないが、こういうこともあっただろうと、気持ちを受け止めてもらえたなら、やって良かった」と話した。きゃんも「沖縄の人でもこんなことあったのかと発見もある。本土で何度も公演があればいい」と語った。