大切な水、どう守る?【SDGsって? 知ろう話そう世界の未来】6


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 沖縄の島々では古くから水の確保が地域の大きな課題だった。本島では復帰後に大型ダムが整備され、25年間は断水もないが、ここ数年は初夏の少雨で渇水懸念が続き、座間味島など離島ではたびたび給水制限が行われている。水量だけでなく目に見えない水質の問題も明らかになっている。地下水を主な水源とする宮古島では、地下水を汚さず将来にわたって使い続ける工夫も行われている。SDGs(持続可能な開発目標)の目標6「安全な水とトイレを世界中に」に関わる県内の課題と取り組みを紹介する。

政府、暫定目標値設定へ

水道水のPFOS汚染

 県民生活に欠かせない水の汚染問題がこの数年で注目を集めている。汚染物質は「PFAS」と総称される有機フッ素化合物。中でもPFOSやPFOAと呼ばれる毒性の高い物質による汚染が表面化している。汚染源は米軍基地だとみられているが、米軍は汚染除去に向けた県の立ち入り調査を拒否しており、解決の道筋は見えない。

 問題が表面化したのは2016年。県企業局が14~15年に実施した水質調査で、米軍嘉手納基地の排水が流れる大工廻川で1リットル当たり183~1320ナノグラム、比謝川ポンプ場で同41~543ナノグラムのPFOSが検出されたと発表した。米環境保護庁(EPA)の当時の水質基準同200ナノグラムを大きく上回った。

高濃度の有機フッ素化合物が検出されたシリーガー。地域住民が洗濯などの生活用水として使用していた。汚染問題を受けて「この湧水は飲めません」の看板が設置されている=2019年4月、嘉手納町屋良

 県はこれらの川を取水源とし、那覇市など県内7市町村に給水する北谷浄水場の浄水のPFOS値は1リットル当たり15~80ナノグラムで、安全性に問題はないとした。

 その後、米軍普天間飛行場の周辺でも農業などに使われてきた湧き水の汚染が確認された。

 PFOSは米軍が使う泡消火剤に含まれ、環境中の残留性が高いことから地下水などを汚染し続けているとみられている。

 米EPAは16年に水道水中のPFOSとPFOAの合計値に関する生涯健康勧告値を1リットル当たり70ナノグラム以下に厳格化した。県は北谷浄水場に粒状活性炭を導入してPFOSやPFOAの低減を図っており、水道水は米EPAの基準値以下だとして安全性を強調している。ただ米国の州によってはEPAより厳しい基準を独自に定めている例もある。EPAも暫定的な指標として40ナノグラム以下に厳格化することを決めており、現在の基準値を使う合理性に疑問を呈する声もある。

 県は日本国内にはPFOSに関する水道水中の基準値がないとして政府に設定を要請した。政府は20年4月をめどに法的拘束力のない「暫定目標値」を定めることにしている。


資源循環で地下水保全

上野資源リサイクルセンター 宮古島市

 宮古島には山や川がなく、生活用水や農業用水のほとんどを地下水に頼っている。島の土壌はサンゴからできた琉球石灰岩が風化したもので、豊富なカルシウムがさまざまな農作物の育成を可能にしている。しかし、裏を返せば地下水が汚染されたり、水の消費が増大したりすれば、水不足に悩まされるということを意味する。農業が盛んな土地だからこそ地下水の保全は大きな課題だ。

 宮古島市上野にある市上野資源リサイクルセンターは、島内の家畜ふん尿や下水汚泥、剪定(せんてい)された枝などを集積して発酵肥料を生産している。センターの堆肥は地下水に影響する化学成分の流亡を防ぐ効果がある。この堆肥を農地に使用することで島内の資源をリサイクルしながら地下水の保全にも貢献できる。センターは「資源循環型地下水保全事業」として取り組んでいる。

発酵が進んでいく中で高熱を帯び、水蒸気を発している肥料について説明する瀧澤篤さん=10日、宮古島市上野の上野資源リサイクルセンター

 肥料は主に牛ふんと剪定後に細かく粉砕された木の枝などのチップ。これらを混合して、施設内の発酵槽に堆積して肥料化する。発酵中、混合した堆積物中に含まれる微生物が活性化して有機物の分解が進み、80~90度の熱が発生することで有害な病原菌などが死滅することから、衛生面の懸念もクリアしている。

 市から指定管理を委託され、センターを運営するS&Kみやこ島の社長を務める瀧澤篤さんは「宮古島は立地上、島内で循環を完結させることを踏まえて持続可能性を考えなければならない」と説明する。

 ここ数年、島を訪れる観光客や建設業関係者などが急増しており、今後も地下水の汚泥の増加が見込まれる。瀧澤さんは「農業に活用できる方向を考慮して、チップを焼却せずに堆肥にして土に戻すことが地下水保全にも二酸化炭素削減にも大きく貢献すると考えている。発酵肥料を使ってもらって初めて保全につながるので、土そのものや作物の品質向上に貢献できるものを提供していきたい」と語った。


本島取水量、復帰時の倍に

 本島では大型ダムの整備で供給可能な水量は復帰時の約4倍に。水の確保が難しい小規模離島では海水淡水化施設、地下水をせき止めて造る地下ダム(宮古島)も利用されている。

 ただ人口や観光客が増え、生活様式が変わる中、県企業局が沖縄本島のダムや河川から取水する量は、日本復帰した1972年度の1日平均22万7千トンから、2017年度には44万6千トンに倍増した。

 地球温暖化の水資源への影響も危惧される中、18年には少雨のため本島でも水不足への懸念が大きくなった。水の確保は今なお続く大きな課題だ。

 

SDGsとは…
さまざまな課題、みんなの力で解決すること

 世界が直面しているさまざまな課題を、世界中のみんなの力で解決していこうと2015年、国連で持続可能な開発目標(SDGs)が決められた。

 「持続可能な開発」とは、資源を使い尽くしたり環境を破壊したりせず、今の生活をよりよい状態にしていくこと。「貧困」「教育」などと整理し、17の目標を立てている。

 大切なテーマは「誰一人取り残さない」。誰かを犠牲にすることなく、全ての人が大切にされるよう世界を変革しようとしている。

 視線を未来に向け、日常を見直すことがSDGs達成への第一歩になる。