「共に生きるために必要な公共や市民性を育むのが高校」 共に学ぶ教育を実践する大阪府立西成高 〈高校でも一緒に・定員内不合格を考える〉⑦


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知的障がい者自立支援コースを設置し、障がいのあるなしにかかわらず共に学ぶ教育を実践する大阪府立西成高校の生徒ら=大阪市西成区

 「ともに学び、ともに育つ教育」を掲げる大阪府教育委員会は、「知的障がい生徒自立支援コース」を高校に設け、授業の方法を工夫しながら知的障がいのある生徒も、ない生徒も一緒に学ぶ環境を整えている。コースが制度化されたのは2006年度。高等支援学校の生徒が普通高校の生徒と一緒に学ぶ「共生推進教室」と併せ、13年間で取り組みを拡大してきた。

 自立支援コースは府立9校に設置されている。府教委は各校に国の加配を含む4人の教員を配置。各校ではコーディネーター教員を中心に学校全体で支援を充実させている。コースの生徒には支援教員が付くクラスでの授業、支援が付かないクラスでの授業、小集団の授業、個別の授業と四つのパターンを使い分ける。評価は個人の達成目標を決めて個別に行い、試験を課さない場合もある。

 コースが設置されている西成高校は小中の学び直しに力を入れた「エンパワメントスクール」でもあり、コース以外でも障がいのある生徒が入学する。山田勝治校長(62)は同校を「特別支援学校と普通高校の間にある学校」と表現する。

 教頭でも勤務するなど同校との関わりが長い山田校長。初めて赴任した際に障がいのある生徒や保護者が参加するキャンプをボランティアで手伝った経験から「びっくりすることもあったが、懸念するほどのことじゃない」と感じ気負いはなかった。

 山田校長は「学校という集団の力をいくつも見てきた」という。発語が少ない生徒が学校にいる間は会話するようになったり、友達に勉強を教えてもらうことで一生懸命問題を解こうとしたりと、さまざまな変化を目の当たりにした。

 入学前の学校説明会では「障がいがあっても隠さないでください。うちでは大丈夫だから」と伝えている。入学した生徒や保護者は、仲間紹介カードに「うまくいかないとパニックになる」「発達障がいがある」など、障がいの程度も含めて記入する。生徒や教員が互いを理解しながら共に学ぶ環境を整える。

 山田校長は「たくさんの障がいのある子がうちを目指してきてくれるのはありがたい」とする一方、「特定の学校だけでやっていていいのか」という疑問も抱えている。「社会に出れば障がい者がいるのが普通。共に生きるために必要な公共という概念や市民性を育むのが高校だ。単純に定員が割れたから入れればいいということではなく、誰に開かれている学校なのかを考えないといけない」と、共に学ぶ教育の意義を認識する必要性を説いた。
 (稲福政俊)
 


 県立高校への進学を希望する重度知的障がいがある仲村伊織さん(17)と家族の活動は、ほとんどの中学生が高校進学し、社会では高校での学びが求められているにもかかわらず、成績が足りなければ空席があっても入学できない定員内不合格の問題をあぶり出した。「誰ひとり取り残さない」を理念に「質の高い教育をみんなに」を掲げるSDGs(持続可能な開発目標)にもつながる、共生社会に向けた高校のあり方を考える。